まずはペドロ・アルモドバル監督作にしてアントニオ・バンデラス主演、『私が、生きる肌』(2011年)のロベルからご紹介しよう。
天才的な形成外科医ロベルの大豪邸には、ある一人の女性が密かに監禁されていた。
〝ベラ〟と呼ばれるその美女の容姿は、ロベルの亡くなった妻〝ガル〟に瓜二つ。実はロベル、かつてガルをある出来事で失った悲しみから、完全なる人工皮膚の製作に執着するようになっていた。そしてその被験者ベラを、ガルそのものの外見に作り替えていたのだ……というサスペンス・ドラマ。
このあらすじだけでもなかなか衝撃的な内容であり、相手の人格や尊厳などまるで気にも留めていないロベルの異常性が感じ取れることだろう。しかし、本作の問題は序盤よりも、むしろ中盤以降。
「かつてロベルやその妻ガルの身に一体何が起こったのか」、「そもそも実験体〝ベラ〟とは一体何者なのか」──すべての真実が明らかになったとき、生理的嫌悪感と、それ以上の衝撃に打ちのめされること請け合いだ。
【キモ100%】悪趣味ストーカー、地獄的光景、世界一オゲレツな人間…「キモキャラ」映画ベスト5
ときとして映画には〝気持ち悪いキャラクター〟が登場する。その気持ち悪さは様々だが、大抵は強烈なインパクトを伴っている。そこで今回はそんなキモキャラが登場する映画作品を新旧マイナーメジャー交えてランキング形式で5作品紹介する。上位3作品は実際の映像はもちろんだが、読むだけでも吐き気を催すかもしれない内容である。特に食事中の閲覧は自己責任で、ご覚悟いただきたい。
キモキャラ映画5選
生理的嫌悪感と、それ以上の衝撃
第5位:『私が、生きる肌』(2011年)

第4位:『ビバリウム』(2021年)

『ビバリウム』(2021年)に登場する正体不明の〝子ども〟も、その気持ち悪さでは大したものだ。
本作は「どこにでもいるようなごく平凡な男女が、突如として外界から隔絶された謎の住宅地に閉じ込められ、何者かの意思で〝人型の生命体〟の世話を強要される」というSFホラー映画。やむを得ず二人はその外見だけは人類に酷似した男児を育てることとなる。
「盗み聞きした他人の会話の内容を、無秩序に復唱し続ける」
「何かを要求する際には、甲高い声で鳴き続ける」
といった言動で主人公らを悩ませる〝子ども〟だが、彼が幼い少年の見てくれを保っているうちはまだ常識の範囲内。
その喉にはカエルのような鳴嚢(めいのう)が存在していて、ときにはそれを使って謎の言語を操る。さらには主人公らの目を盗んでは時折、謎の上位存在とやり取りを行っているような素振りも見せており、まるで可愛げがない。明らかに未知の生命体である。
そうでなくとも人の神経を逆なでするかのような言動を連発する上、成長後の顔立ちは二人を閉鎖空間に招待した不動産業者にそっくり……と、ただただ不気味。
社会風刺的で救いがなく、フラストレーションが溜まる一方のストーリーも、彼の気持ち悪さを倍増させている。
第3位:『ハングマン』(2015年)

続いてご紹介するのはP.O.V.ホラー映画、『ハングマン』(2015年)。
この映画はほぼ全編〝とあるストーカーが持つハンディカム視点〟および〝彼が標的とする四人家族の住まいに仕掛けた監視カメラ視点〟で描かれる。そのため、時々ストーカーの荒い息づかいが直に聞こえてくる仕様が嫌らしい。
「謎のストーカーに狙われた一家の悲劇を描く」本作、その見所はハングマンの不愉快極まりない挙動の数々にある。
具体的には、「深夜こっそり他人の家に忍び込み、冷蔵庫のオレンジジュースを勝手に取り出すと、直に容器に口をつけて飲む。そして一旦口に含んだオレンジジュースを、オエッ……ペッ……と淡でも吐くかのように容器に吐き戻し、そのまま仕舞い直す」など。
当然ターゲットにされた人々は、何も知らぬまま後日その〝ストーカーの吐き出した唾液混じりのオレンジジュース〟を飲んでしまうわけだ。
繰り返しになるが、不愉快極まりない。
ラストまで素顔のわからない、この変質者ハングマンは、ほかにも様々な奇行を繰り返し、一家を恐怖のどん底に陥れる。その結末は、ぜひご自身の目で見届けていただきたい。
第2位:『ソドムの市』(1976)

定番のタイトルではあるが、やはりあの悪趣味映画『ソドムの市』(1976)に登場する、4人のファシストは外せまい。
大統領、大司教、公爵、最高判事の4名からなる邪悪なファシストたちは、町から集めた大勢の美少年、美少女たちに対して、筆舌に尽くし難い拷問と凌辱の限りを尽くす。
序盤4人が「お前たちを我々の性欲に奉仕する奴隷として扱う」と高らかに宣言した通り、若い男女らは様々な方法により徹底的に尊厳を踏みにじられ、倒錯的な欲望のはけ口とされる。「母親を殺された少女が悲しみのあまり号泣し始めた途端、その泣き顔を食い入るように見つめ出す」ファシストらのウキウキとした表情は、名演技であり、そして大変不愉快だ。
全編通しておよそろくでもない一本だが、特に第3章〝糞尿地獄〟では、文字通りの地獄的光景が繰り広げられるため要注意。
一応、単なる悪趣味映画というわけではなく、時折挟まれるファシストらの台詞や登場人物らの配置からはメッセージ性を感じるものの、それでもやはり過激には違いない上、シンプルに気持ち悪い。
決してつまらないというわけでないにせよ、以上の理由から不特定多数へのオススメはいたしかねる。
第1位:『ピンクフラミンゴ』(1972年)

作品としての強烈さは『ソドムの市』が上かもしれないが、キャラクター個人としての存在感に焦点を当てた場合、伝説的カルト映画『ピンクフラミンゴ』(1972年)の主人公ディバインを第1位の座に推したい。
ストーリー自体は「〝世界一オゲレツな人間〟という称号を巡って、〝オゲレツ人間〟同士がちょっかいをかけ合い、争う」という単純明快なもの。ハナっから気持ち悪さ・悪趣味さをコンセプトにした作品というわけだ。
当然その内容は熾烈を極め、撮影にあたって「本物のニワトリを交えた性行為中のシーンでは、そのニワトリを殺したがゆえに動物愛護団体からの抗議を受けた」というエピソードが有名。
そしてラストは、なんと主人公が犬のフンを食すというとんでもないシーンで締めくくられる。なお、その犬のフンは撮影用の作りものなどではなく、「主演俳優が本当に、本物の犬のフンを食している(さすがにすぐ吐き出している)」とのこと。
このエピソードはドキュメンタリー映画『ミッドナイトムービー』(2005年)で語られている。

それはそれとして、本物か否かにかかわらず、作中にはドン引きの衝撃シーンが目白押し。ディバインの振る舞いは、なるほど確かに〝世界一オゲレツ〟には違いない。
以上が、〝気持ち悪いキャラクター〟5選である。言うまでもないことだが、決して彼らの真似をしてはいけない。
取材・文/知的風ハット
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