カルトもニッチも未公開も取りこぼさず。年間3000本のユーザーリクエストに応えるU-NEXT映画部が目指す15,000本から3万本配信への奮闘
「見たい!」と思ってタイトルを検索すると、旧作でも、未公開作でも、映画祭でしか上映されなかったレア作品でも、多くがヒットするU-NEXT。映画の配信ラインナップはなんと15,000本以上。豊富な作品を配信できている背景とは? U-NEXT映画部5人の知られざる苦労と、熱すぎる映画愛に迫った。
U-NEXT映画部特集#4
U-NEXでしか見られないラインナップが強み

林 U-NEXTでは日本全国40以上の映画祭と連携し、映画祭で上映されるユニークな作品を配信する「全国の映画祭を、あなたのもとへ。」を実施中です。
始まりは2020年の東京国際映画祭。同映画祭で上映された過去作を、U-NEXTで配信するところから始めました。東京国際映画祭というとやや大規模なイメージですが、基本的にはもっと小規模な映画祭を中心にやっています。
小林 コロナ禍で映画祭を応援したいという気持ちももちろんありましたが、配信を通して、日本中で開催されている映画祭を世の中に広めるという形を作ることができた。今後も続けていけるようないい形になったと思っています。
林 一方で、直接アタックして実現したのが、米トロマ・エンターテインメントの作品群。U-NEXTでは社内や部内からも、「他の配信サービスにはないけれど、こういうのがうちにあったらいい」と思う作品を募っています。そういった未公開プロジェクトの中で、特に齊藤くんの情熱が全作品配信につながったのが「閲覧注意!?トロマ映画大全集!」なんです。
齊藤 そうですね、まず僕が個人的に見たかったということもあって、そこから始まった話でした(笑)。
林 『悪魔の毒々モンスター』(1984)がトロマの一番有名な作品なんですけど、僕が元いたギャガが関わっていた作品でした。そこで問い合わせたところ、「権利は全部本国アメリカに戻っているよ」と。そこでトロマ・エンターテインメントのお問合せホームから連絡をしてみたところ、即レスが来て。それこそ「ウェーイ!」的な感じのメールでした(笑)。
齊藤 メールの下の署名のところに「トロマビルへようこそ!」みたいな、ノリノリな感じでしたよね。
林 そこからとんとん拍子で話が進んでいきました。
全作品をチェック! 地獄のトロマ映画特集

齊藤 金額面も決まり、さっそく配信できることになったのですが、字幕がないという状態だったんですよね。日本で配給されていた作品もあるのですが、軒並み担当者がいないなどの問題があって。結局、全作品の字幕を作り直して配信させていただきました。
この作業がまず、なかなか大変だったのですが、同時に「本当に配信していいのか?」という問題があって。基本的にトロマ作品の内容はかなり過激だし、当時の倫理感で作られてるので、今配信したら大炎上ということもあり得る。そこで、今ここにいる林さん、小林さん、君嶋さん、齊藤の4人で中身チェックをすべてやりました。
君嶋 もう地獄でしたよね(笑)。
齊藤 あ、ここなんか出ちゃってる!とか記録しながらね……。
君嶋 スプレッドシートに、「タイムコードの何分何秒のところに○○が見えちゃってます」みたいなことを、大真面目に書き込んでいましたよ(笑)。あ、スプレッドシート残ってますね。いやあ、これは本当に苦労したなあ。
齊藤 でも、結局、全部配信できたんですよね。で、これが大成功だったわけです。この企画をやった2020年当時は雑誌『映画秘宝』に記事化していただいたり、TBSラジオの「アフター6ジャンクション」で大特集を組んでいただいたり、日本時間の朝4時とかにリモートでトロマの共同創設者でもあるロイド・カウフマンと一緒にミーティングしたり。
カウフマンのインタビューもYouTubeに残っていますが、なんかクラリネットみたいなのを吹いてくれたりして。すごく喜んでくれていたし、こちらを楽しませようとしてくれていましたね(笑)。
林 トロマ作品の配信は我々にとって勇気がいることでしたが、反響がものすごく大きくて。配信開始したら社内からも刺されるんじゃなかろうかとかとドキドキしてたんですけど、一般のユーザーさんからの反響がSNSなどで起きて、U-NEXTに対する感謝や称賛の声が止まらなかったんです。
今ではうちの社長にも取材等でトロマ、トロマと言ってもらえるようになりました。トロマってあまり社長の口から出るに相応しい言葉じゃないと思うんですけどね(笑)。
齊藤 もう僕はこれで、この会社に悔いはないです! ありがとうございます(笑)。
5人で手分けして3000本のリクエストを徹底リサーチ
林 トロマ特集は社内からのリクエストの例ですが、ユーザーの方からのリクエストは年間3000本ぐらい来ています。それに対して、ここにいる5人で手分けして、大真面目に1つ1つ調べるんですね。
これはU-NEXTで過去に配信したことがあるのか、あったとしたらなぜ今落ちているのかとか。逆にうちでやっていなかったら、どこが権利を持っているのかを探しにいく作業を延々とやるわけです。
おかげさまで、未公開映画も含めて多くの作品が実現に至っています。

ジェフ・ブリッジス×ティム・ロビンス、演技派スターが共演したサスペンススリラー。不気味なオープニングからショッキングなラストまで、息詰まる緊張感が持続する傑作!
©1998 LAKESHORE ENTERTAINMENT CORP.ALL RIGHTS RESERVED.
君嶋 リクエストが多かった作品では、『フラッシュ・ゴードン』(1980)があります。これはカルト的人気を誇るSFアドベンチャーで、僕も個人的にずっとリクエストしていた作品なんですが、リクエストを整理していた中でも、ユーザーからの要望がとても多かった。そこで国内で権利を持ってそうなところにヒアリングをしたのですが、そこにはビデオ権だけで配信権はなく。
権利を持っていそうな会社のリストを国際部にお願いして当たってもらい、最終的にカナダのある会社が、権利を持っていたという感じです。
ほかにも、DVDとかブルーレイが廃盤になっていて、さらに内容的な問題でレンタルや地上波でも放送できないものもあります。
ジェフ・ブリッジスとティム・ロビンス共演のスリラー『隣人は静かに笑う』(1998)は見ることができない作品として有名でした。グロいとかではないんですけど、多分政治的な内容だと思います。これは劇場公開作ではありますが、U-NEXTではこういったレア作品も多く配信しています。

女性インディペンデント映画監督、ケリー・ライカートのデビュー作『リバー・オブ・グラス』(1994)。現実から逃れたいという思いを抱く男女の逃避行を描いたロードムービー
© 1995 COZY PRODUCTIONS
宮嶋 苦労は全然していないのですが(笑)、「ケリー・ライカート特集」は、権利元さんとの信頼関係がいい結果につながった結果だと思います。配給元が配信権も持たれていたのですが、U-NEXTが公開規模は小さくても良質な作品を積極的に配信していることをご理解くださっていて。うちに最初にご提案をいただき、先行独占配信が決まったという流れでした。
ほかにも、プライベートで見に行った上映ティーチインの後、監督に直接お声がけして配信につながった作品も、いくつもあります。やはりU-NEXTに対する信頼を感じることが増えていますね。地道に実績を重ねて、そうした信頼関係が築けていることはすごくありがたいです。
林 そうですね。今は配給元と一緒になってプロモーションをし、盛り上げることもしています。「U-NEXTで作品を大事に扱ってほしい」と言っていただくこともあります。金額面も含めて、評価いただいていると実感しています。
U-NEXT映画部特集#1でもお話しした通り、現状U-NEXTの配信作品は15,000タイトルを超えていますが、目標は3万本です。地道に多くの作品を揃えながら、レンタル店でいうところの棚組を充実させるイメージで、特集を積極的に組んでいます。僕らは“セレンディピティ=偶然の出会い”をユーザーのみなさんに提供したいと思っているんです。
自分が好きなものばかり目に入ってくるのが、今のスマホ文化。セレンディピティが生まれにくいのがデジタル文化の特徴です。でもU-NEXTでは、そうじゃないアプローチをしていこうよと。
今はレンタル店もだいぶ数が減っていますが、その偶然の出会いができたレンタル店っぽさを、これからも試行錯誤しながら目指していきたいと思っています。
取材・文/今祥枝
U-NEXT映画部
2023年4月現在は総勢5名。100社を超える映画会社と向き合いながらの作品調達、映画作品をテーマ別にキュレーションした特集の制作、「ONLY ON U-NEXT」として打ち出す独占先行作品の選定と交渉、映画作品への出資、映画祭との連携等々、映画に関することの全般を手掛ける。
U-NEXT
https://video.unext.jp
U-NEXT映画部のnote
https://note.com/unext_movie
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