昔の作品でも見たことがなければ新作映画!
一周まわって新しく映った作品の数々をピックアップする「桂枝之進のクラシック映画噺」、今回は恵比寿ガーデンシネマのリニューアル記念特別上映が行われていた、ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)をご紹介。
ニューヨークで暮らすウィリー(ジョン・ルーリー)の家に、ハンガリーから渡米してきた、いとこのエヴァ(エスター・バリント)がやって来る。
ウィリーの元で10日間滞在した後、エヴァはクリーブランドへ移り住む。
その1年後、ウィリーは相棒のエディ(リチャード・エドソン)を連れてエヴァに会いに行き、3人はフロリダへ向けてロードトリップへ出かけるが……。
モノクロかつ1シーン1カットの長回し、淡々と生活を描くスタイリッシュな作風。
一見とっつきづらい作品なのだが、人間本来のおかしみが沸々と湧き出し、最後まで心地よく運ばれていった。
オフビートなユーモア溢れる会話劇の中に、ウィリーがエヴァの前でカッコつけようとする絶妙なダサさが滲み出る。それを少し斜に構えて笑う観客という、メタ的な構図も含めて、この作品はジャームッシュという現象なのだと思った。
(ちなみに筆者は中学生の頃、同監督の『コーヒー&シガレッツ』(2003)を「なんか名前がカッコいいから」という理由でレンタルしたことがある)
40年経った今見てもスタイリッシュ。“ケの日常”にジワジワ染み込む、ジム・ジャームッシュ監督の代表作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
本業の落語のみならず、映画や音楽など幅広いカルチャーに造詣が深い21歳の落語家・桂枝之進。自身が生まれる前に公開された2001年以前の作品を“クラシック映画”と位置づけ、Z世代の視点で新たな魅力を掘り起こす。
Z世代の落語家・桂枝之進のクラシック映画噺11
ミニシアターブームを牽引したジム・ジャームッシュ監督作

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
Album/アフロ
愛すべき退屈な日常を切り取るジャームッシュの美学
1984年の公開当時、この作品はミニシアターブームの先駆け的存在として若者を中心に熱狂的な人気を博したという。
1984年と言えば『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)や『ゴーストバスターズ』(1984)が公開された年。
華やかでダイナミックな商業映画に対し、社会の外側にいる人を描くことにこだわったジャームッシュの強い美学と、当時この映画を支持した観客たちの、豊かな感受性をうかがい知ることができる。
時代背景はこの作品を深く知る重要なポイントで、1980年代、IMF(国際通貨基金)に加入したハンガリーは欧米諸国との関係改善を進め、同時に大勢の移民がアメリカへと渡った。
今はなきパンアメリカン航空に乗ってはるばるニューヨークへやって来たエヴァに、ウィリーは「ハンガリー語は喋らないでくれ。ここでは英語だ」と言い放つ。
先にニューヨークへ渡っていたウィリーがどんな想いで母国を離れたのかは計り知れないが、一方でエヴァのシーンもまた、彼女のシーンに度々流れるスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの「I Put A Spell On You」によって、母国を捨ててアメリカの地を目指したたくましさが表現されているように思えた。
ちなみに1956年に発表されたこの曲は、本作を契機にリバイバルヒットしたのだが、エヴァの移り住んだクリーブランドがスクリーミン・ジェイの出身地なのは単なる偶然か否か。
スポットライトの当たらない人々にスポットを当て、愛すべき退屈な日常を切り取るジャームッシュ作品。
町中華で出てくる申し訳程度のスープのように、ケの日常にジワジワと染み込んでいった。
文/桂枝之進
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984) Stranger Than Paradise 上映時間:1時間29分/アメリカ・西ドイツ
ニューヨークで気ままに暮らすウィリー(ジョン・ルーリー)と、いとこのエヴァ(エスター・バリント)、ウィリーの相棒のエディ(リチャード・エドソン)の平凡な日常を切り取った全編モノクロの作品。長編2作目となるジム・ジャームッシュ監督は、1984年のカンヌ国際映画祭で新人監督に与えられるカメラドールを受賞した。
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