1分で説明できる単純明快さがカギ

その昔、日本の映画会社・大映の社長だった永田雅一は、製作にゴーサインを出すかを決める企画会議で、1分以内に説明できない企画はそれだけでボツにしたという。一般大衆は小難しい理屈など抜きに、単純に娯楽としての映画を欲している。つまり、社長に1分以内でその映画のあらましや売りのポイントを説明できないようでは、お客だって安心してチケットを買ってくれないはず、というわけだ。

その意味で “ワンシチュエーション・サスペンス”は、まさしく昔ながらの映画の醍醐味を凝縮したジャンルだと言える。今回は、そうした作品の数々をご紹介しよう!

思いもよらない結末になだれ込む傑作!

『#マンホール』(2023)上映時間:1時間39分/日本

Hey! Say! JUMP中島裕翔の新作も! 絶体絶命・単純明快な設定と意外な結末がおもしろすぎる、ワンシチュエーション・サスペンス5選_1
©️ 2023 Gaga Corporation/J Storm Inc. 
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初めに紹介するのは、Hey! Say! JUMPの中島裕翔が6年振りに映画の主演を勤めた『#マンホール』(2023)。

主人公の川村は、営業成績トップで、社長令嬢のハートも射止めた超ハイスペック・サラリーマンで、みなの羨望を一身に集める男。明日はいよいよ結婚式という前夜、渋谷で開かれたサプライズのバチェラー・パーティで酩酊し、帰り道でマンホールの穴に落ちてしまう。

Hey! Say! JUMP中島裕翔の新作も! 絶体絶命・単純明快な設定と意外な結末がおもしろすぎる、ワンシチュエーション・サスペンス5選_2
©️ 2023 Gaga Corporation/J Storm Inc. 

穴の底で深夜に意識を取り戻した川村は、脚に怪我をしていてうまく身動きが取れず、しかもハシゴは壊れていて地上に出ることは不可能。持っていたスマホのGPS機能で、場所が渋谷近くの神泉だとわかるが、警察に電話してもまともに取り合ってもらえず、どうやらGPSが誤作動していて全然違う場所にいるらしいとわかる。

ということは、誰かにハメられて、意識混濁の中で別の場所に連れ去られたのか?

一計を案じてSNS上で助けを求めるべく、若い女性の方が注目を引くはずと考えて“マンホール女”のアカウントを立ち上げてネット民たちに場所の特定と救出を求めるのだが……と、“ワンシチュエーション・サスペンス”の王道を行くストーリーが展開されていく。

だが、なのだ。この映画のキモは、実はこの“ワンシチュエーション”の背景で、当初観客が思っていたのとは全く異なる事実が次第に明るみになっていく点にこそある。

ネタバレに繫がることは書けないが、なぜ川村はハメられることになったのか? そもそも川村という男がみなが羨む超ハイスペック・サラリーマンになれたのはなぜなのか? そういった謎の答えが、閉鎖空間に一緒に閉じ込められた感覚で、観客に薄皮を一枚ずつ剥いでいくように提示されていく。

“ワンシチュエーション・サスペンス”から、思いもよらなかった結末へと一気になだれ込んでいくストーリーは、『ライアー・ゲーム』(2009・2012)シリーズや『マスカレード・ホテル』(2018・2021)シリーズの岡田道尚による原案・脚本。演出は『海炭市叙幕』(2010)や『私の男』(2014)の熊切和嘉と、いやが上にも期待をもたせるが、その期待のさらに上を行く、面白さに満ちた1本なのだ!