《後編》日本のコロナ「専門家」はなぜ表舞台から消されたのか?

人口あたりの死亡者数が先進国の中でも少ない

――新刊『奔流』を面白く読みました。サブタイトルの通り、日本を襲ったコロナ禍と最前線で闘った専門家たちが、「政治(家)」によって、どのように“消されていったのか”を追跡した迫真のドキュメントですね。

広野(以下、同) 
ありがとうございます。コロナ危機は本当にみんな大変な思いをしていますし、誰しもが忘れたい3年半ではないかと思います。ただ世界のコロナの専門家を見渡すと、2023年、米国ではペンシルベニア大学のカタリン・カリコ氏がノーベル賞を受賞し、英国では政府の助言役が王室叙勲を受けるということで称賛を浴びています。

ところが日本では、尾身茂氏をはじめとしたコロナ「専門家」は、2023年8月末に岸田首相の15分の面会があっただけです。人口あたりの死亡者数が先進国の中でも少なく終えられた。「日本がいちばんうまくやり遂げた」という声すらあるにもかかわらず。これはなぜか――。

そんな素朴な疑問を縦糸にすれば、一つのストーリーとして提示できるのではないかという思いで書き進めました。

――専門家会議座長の尾身茂さん(当時JCHO理事長)を「ドーナガ」、厚生労働省クラスター対策班の中心人物だった押谷仁さん(東北大学・大学院教授)を「速足の男」、国立保健医療科学院の健康危機管理研究部長の齋藤智也さんを「アイスホッケーマン」と名付けるなど、作中で研究者たちそれぞれのキャラクターを際立たせているため、マーベル映画のアベンジャーズを観ているようでした。

わざわざキャラを立てたわけじゃないんです。公衆衛生の研究者の人たちは、本当に個性的な方ばかりだったので。

マスクをして記者会見する尾身茂会長 写真/共同通信
マスクをして記者会見する尾身茂会長 写真/共同通信
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――もちろん、コロナ禍はフィクションではなく現実の出来事で、世界で約700万人、日本でも7万人以上もの方々が亡くなっています。まず、最初に、2024年1月現在において、いわゆる「コロナ禍」はどのような状況になっていると理解すればいいのでしょうか?

昨年8月から9月にかけての第9波の流行は、重症者や死者数が大きく増えることなく、医療逼迫が起きることもなくおさまりました。年末からまた、定点医療機関あたりの患者数は増加の兆しはあるものの、夜に繁華街に繰り出せば、多くの人で溢れています。
ワクチンや自然感染を通じて免疫を持つ人が増えたという面もあるけれど、現在も後遺症に苦しむ人が少なからずいる。とはいえ、こうした現象は日常に溶け込んでニュースとしてほとんど取り上げられなくなっています。