母体である立川国際中等教育学校は、2008年に開校した中高一貫校です。比較的新しい学校ですが、国際色豊かなカリキュラムで人気を集め、大学進学実績も有名大学がずらりと並ぶ進学校です。
これだけ優秀な学校の附属なら初年度の人気も納得と思うかもしれませんが、新設校では開校初年度は定員割れを起こすことは少なくないんです。実際の指導実績がないため、教育活動などの成果で判断することができませんから。
立川国際の特筆すべきところは、そんな初年度で30倍を超える倍率であること。これはとても大きなニュースです。
倍率31倍。「立川国際附属小」に受かった子は、いったい何が違ったのか?
2022年4月に開校した日本初の公立の小中高一貫校「東京都立立川国際中等教育学校附属小学校」(以下、立川国際)。新設校であるにもかかわらず、その受験倍率は30.98倍にも上った。そんな高倍率を突破し、合格を手にしたのはどんな子どもだったのか、幼児教室こぐま会の代表、久野泰可さんに話をうかがった。(トップ画像/立川国際HP・イラストはイメージです)
ブランドじゃない、学校選び

校舎は令和4年夏頃、校庭は令和5年夏頃に完成予定(立川国際HPより/イラストはイメージです)
開校前からここまで注目されている理由には、この学校が開示している「小中高一貫教育」の内容がとても明確であり、しかもそれが現在の社会に求められている要素ということにあると考えます。
立川国際では、小学校1年生から英語の授業が週4時間、義務教育の9年間で通常の学校より1,000時間多く外国語を学習する、などのカリキュラムが明示されています。
実はこういった国際化を重視する教育方針の学校は他にも東京農業大学稲花小学校など、近年少しずつ増えています。これは「社会に出たら語学力が不可欠だ」ということを強く感じている若い世代の親が増えているという背景があるのではと思います。
これまで志望校の決め手となっていた「学校ブランド」や、10年以上先の大学進学実績ではなく、「どんな環境でどんなカリキュラムが組まれているのか」ということを冷静に見る親が増えてきていることの表れです。
立川国際ならではの「逆向き設計」
前述の通り、立川国際は小学校段階から外国語学習に力を入れていますが、そのほかにも、探究的な学習に重きを置いています。物事について受動的に教わるだけではなく、それについて論理的に思考する力や、他者の意見を聞いた上でさらに考えを深める力を育てることを重視しています。
また、中高に進級すると外国語でさらに豊かに考えを表現する力や、テーマについて批判的に吟味する力など、小学校からの地続きとなる教育課程を用意しています。

立川国際中等教育学校とは空中歩廊でつながっている(立川国際HPより/イラストはイメージです)
ここまで一貫した教育課程を示すことができるのは、小中高一貫校だからこそできる「逆向き設計」のカリキュラムによるものです。
「逆向き設計」とは、12年後(高校卒業時)に目指す生徒像を設定した上で、小学校1年生からの教育課程を逆向きに設計するということ。市村裕子校長は、それがこの学校の強みだともおっしゃっています。数多くある私立の小学校から大学までの一貫校でも、ここまで教育内容を一貫して設計している学校はそれほど多くはありません。
立川国際に合格したのは、どんな子?
本教室から立川国際に合格したお子さんに限って言えば、とても元気で子どもらしい一方で、自分の考えをはっきりと言い、相手に伝えることができる子たちでした。
また、保護者については、関わりの中で子どものことをしっかりと理解し、主体性を尊重して子育てをされている方が多いです。極端に訓練された子どもが合格したというわけではなく、ペーパーによる勉強だけに偏らず、バランスよく教育されているご家庭のお子さんが合格しました。
こういった特徴は、筑波大学附属小学校やお茶の水女子大学附属小学校に合格している子どもと近い印象を受けます。

立場や学年を越えた交流を促すために校内に設けられる対話コーナー(立川国際HPより/イラストはイメージです)
しかし、この合格者の傾向は何も結果が出た後に分かったことではありません。
実は立川国際は公式HPに「求める児童像」や受験問題の例題、出題方針を公開しています。こういった学校からの情報をしっかりとキャッチしているご家庭こそが、今回の受験でよい成績を収めることができたのではないかと考えます。
私は約50年小学校受験業界にいますが、出題する問題の傾向や、評価の視点をここまではっきりと公表したのは立川国際が初めてなのではないかと思います。
立川国際が事前に公開していた適正問題例と、入試後に公開した実際の問題を紹介します。
筆記試験「しりとり」の問題
事前に公開されていた適正問題例がこちら。「しりとりが成立するように並べ、最後にくる動物に丸をつける問題」です。

事前に公開されていた立川国際の適正問題例(立川国際HPより)
実際の適正問題はこちらです。しりとりの最初と最後が示されており、真ん中に入る動物を選ぶ問題となっています。

立川国際の実際の適正問題(立川国際HPより)
比較すると、ほぼ同じ系統の問題が出されていることがわかりますが、実際に出された問題の方がより難しくなっています。
また、立川国際には親子面接がなく、子どもだけの面接だというところも大きな特徴です。このような形式の学校はほかにもありますが、そういった場合は、子どもの対話力や表現力を見ています。
実際の面接試験では、「紙とブロックどちらで遊ぶ?」と聞かれ、紙と答えれば、さらに「何を書く?」と聞かれるという流れで、子どものコミュニケーション力や会話力、表現力を見ていたようです。
小学校受験をする子どもの中には、試験官の先生に質問されても、親の顔を見てから話す、親の反応を確認するという子がいます。そうではなく、しっかりと自分の言葉で自分の考えを話せるかどうかを見ているのではないでしょうか。
立川国際の難易度は?
立川国際の難易度についてですが、単純なペーパーテストの難易度だけで言えばコロナ禍で易しくなった難関女子校と言われる学校と同程度の問題だったかと思います。
ただし、だからといってそれらと同じレベルの学校とは言い切れません。この後、各校の平均点などを見て判断する必要があるでしょう。
問題自体は今年度の平均点を見た上で今後変わっていくでしょうから、2022 年度の問題だけで学校の難易度を判断するのは尚早かと思います。
一方で、コロナ禍で受験準備に遅れが出ている可能性を考慮して、問題が私立・国公立共に易しくなっている傾向があります。
こういった背景もあり、2023年度入学の小学校受験全体の様相自体がまだまだ見えていません。立川国際に関しても、信頼できる教育成果や難易度というのは4〜5年後に出てくると予想しています。
家庭でできる立川国際対策とは
来年度以降に立川国際を受けるならば、まずは学校から発信される情報や教育の様子などをしっかり確認しましょう。
その中に学校の考え方や指導の方向性、理念などが見えてくるはずです。そこから合格には何が必要なのかを判断し、各ご家庭で教育方針を明確にし、受験対策をしていくとよいと思います。
前述の通り、問題についての情報開示がされるというのは、小学校受験業界からすると極めて画期的なこと。この特長を生かさずして立川国際受験の対策は始まりません。
以前、ある学校の願書配布時に配布された冊子には、「小学校受験は、それまでの子育ての総決算だと考えてください」というメッセージがありました。子どもの教育を塾に任せるのではなく、家庭での子育ての総決算として受験を受け止めてくださいという趣旨です。
この言葉の背景には、塾などで受験対策をするあまり、一つの質問に対してどの子どもも似通った答えや反応ばかり見せるという型にはめる訓練の実態があったのではないかと思います。
実際の入試では、「自分で考え、自分で判断し、主体的に行動できる子」が求められています。「子どもらしさ」を大事にしつつ、必要な教育を適切に受けさせる親の判断力、計画力、情報収集力なども、この学校の受験対策には必要であると考えます。
・東京都立立川国際中等教育学校附属小学校HP
http://www.12ikkan-j.metro.tokyo.jp/index.html
・週刊こぐま通信「室長のコラム」幼児が入試問題を再現するhttps://www.kogumakai.co.jp/column/president/798.html
・週刊こぐま通信「室長のコラム」入試改革のきっかけになるかもしれない https://www.kogumakai.co.jp/column/president/789.html
取材・文/マサキヨウコ
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