店を開くという勝の決断は社内で賛否両論を起こし、「会社を信じられない」と採用したばかりの新入社員全員が次々と辞表を提出してきたのだ。

勝が自分を否定されたかのような気持ちになったのは想像に難くない。

「すべては通信簿なのではないかと思います。社員が辞めてしまったのも、自分に何かが足りなかっただろうと」。そう内省するが「『ピンチはチャンス、夜明け前が一番暗い』と私自身いつも口にしていますが、本当に暗くて店舗の雰囲気も悪かったですね」という言葉も、思わず口をつく。

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会社が潰れる時は、どんな時か?

しかし、そんな最悪な状況でこそ見えてくる真実もある。

「会社が潰れる時は、どんな時だろうと考えました。それは膨大な借金をした時でも、店を開けられない時でもなく、結局経営者が諦めた時に会社は潰れるのだ、と。そもそも、私には自分が諦めなければどうにかなるという考えが根底にありました」

落ちる所まで落ちて、勝は吹っ切れた。そして、社員の前でこう宣言した。

「これから先も、私はみんなが納得する決断ではなく、自分が納得する決断をし続けると思う。ただ、それでもついてきてくれる信頼関係が、本当に強いチームをつくるとも信じています」

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不退転の決意を胸に、勝はついてきてくれたメンバーの先行きを照らすべく、自らも積極的に動いた。顧客開拓を進め、必死に売り上げを立て「営業力があれば、会社は潰れない」という信条を勝は体現しようとしていた。

しかし、勝は今までに味わったことのない"違和感"を抱いた。「マンパワーに頼った『オフライン』の営業活動だけでは、また同じような危機に陥ってしまうのではないか」。そう感じた勝は、新たな道を模索する。