「妻の勘違い?」から一転、突き止めた死角
そこまで言うのならばと、早速、探偵が自宅マンションに張り込み、夫の不倫を突き止めることになった。幸い妻が親戚の法事で、週末に一泊二日、家を留守にするという。子どもはすでに独立していたので、その間、家には不倫が疑われる夫ひとりとなる。
本当に不倫をしているのならば、絶対に動き出すはずだ。探偵たちは、依頼者のマンション前に陣取り、夫が不倫相手のもとへいそいそと出掛ける様子を待ち構えていた。
ところが、自宅から夫が出てきたのは、土曜日の夕方、スーパーへの買い物と、日曜日の午後、コンビニに出掛けただけで、後は自宅にこもりっきりだったのだ。まさに完全無欠の夫の休日を、探偵たちは見学していただけで終わってしまった。
「これは奥さんの勘違いかも……」と、探偵たちはそんな認識で一致していた。
しかし、どうしても気になるのが、妻が言っていた事前チェックにぴったりはまる項目だ。SEXの拒否、帰宅してすぐにシャワー、キーホルダーの見知らぬカギ。もう少し妻の第六感を尊重し、事前チェックで考えられる仮説を推理してみることになった。何時間ものディスカッションの末、行き着いた答えは実に意外なものだった。
妻が言うように、夫は限りなくクロに近いグレー。しかし帰宅時間は一定。出掛ける場合も短時間で帰って来る。これらの点と点をつなげれば、考えられる答えは……。
「愛人はすぐに近くにいる!」
すぐ隣にいた愛人
探偵たちはすぐさまマンションの入口で待機し、帰宅した夫と同じエレベーターに乗った。夫にはこちらが探偵だとはバレてはいない。
降りたのは自宅があるフロア。ここまでは問題ない。探偵は夫が降りると同時にオープンボタンを押し、夫の後からそっと出る。エレベーターフロアの陰から見張っていると、なんと夫は自宅前を通り過ぎ、そこから2軒先の部屋の玄関を、慣れた手つきで手持ちのカギを使って入って行くではないか。一体、どういうことなのだろうか?
中に入ったことを確認。後日、そこに住んでいる人物の特定に成功した。やはり推理した通り、その部屋の住人は30代後半の独身OLであった。夫は二人の関係がバレないように思案したあげく、自宅の側に彼女を引っ越しさせていたのだ。
同じマンション、同じフロアに不倫相手を住まわせれば、短時間でも逢瀬を楽しむことができ、いざという時にはすぐに帰れるメリットもある。
夫の計算しつくした不倫実態に、妻もあ然。その後、お互いの親族を交えて話し合った結果、夫は愛人と手を切り、妻のためにもう一度心を入れ替えて夫婦関係の継続を選択した。「妻の妄想」と早計に判断するのではく、事前チェックが明らかに怪しく、依頼者が確信している場合は、とことん突き詰めることの重要さを改めて気づかされた事案だった。
写真:Alamy/アフロ