キャプテンは中間管理職!

 トムの指導は真剣そのものでした。彼は本気で金メダルを狙っていたのです。そのためもあって、練習にはいつも熱が入っていました。トムが私にいつも言っていたのは、金メダル獲得に向けた熱意をキャプテンとして共有し、チームに伝えてほしいということでした。そう言われつつも、私には私なりの考えがありました。
 
 キャプテンとしてリーダーシップを取るといっても、正直なところ、ヘッドコーチの要求を鵜吞みにし、言われたままに行動することを正解だとは思っていなかったのです。キャプテンではあるものの、その前に私は選手でもあります。その自分が、ヘッドコーチと同じ熱量で「あれだ、これだ」とチームメイトに言い続けたら、絶対に溝ができ、最終的に雰囲気が悪くなると予測したのです。

 トムは〝熱を伝えてほしい〟と言い続けていましたが、私は自分なりに考えて、ヘッドコーチと選手たちの間の緩衝役になろうと決めたのです。トムの言うことをそのままチームメイトに伝えるのは、やろうと思えばできるでしょう。ただし、あまりそれをやり過ぎると若い選手たちは萎縮してしまい、本来持っている力が発揮できなくなってしまうかもしれません。私はそれを危惧しました。

 こう考えたのは、私自身に萎縮してしまった経験があったからです。一部の選手が萎縮すると、全体のプレーの質は落ちますし、選手同士の関係にもマイナスの影響が出てきます。キャプテンとしての私の仕事は、そうならないようにチームの結束を維持することだと考えました。

 ただし、ヘッドコーチはトムなので、彼の意向を蔑ないがしろにするわけにはいきません。練習を重ねていくうちに、トムがどこに注意点を置いているのかがわかってきたので、トム自身が選手たちに注意をする前に、気を付けるポイントを伝えたり、練習メニューの切り替えのタイミングでチームメイトと注意点を共有したりするようにしていきました。こうすれば、トムには「リーダーシップをちゃんと取ってるな」と映り、チームメイトからは「トムの言っていることをそのまま伝えているだけじゃないんだな」と受け取ってもらえると思ったのです。

 もしかしたら私は、キャプテンというよりも企業の中間管理職に近い役目を果たしていたのかもしれません。


写真/アフロ

『苦しい時でも一歩前へ』
髙田真希
2021年東京五輪女子バスケ銀メダルの舞台裏#2 日本代表にフィットしたスモールボールのフィロソフィー_b
2022年3月30日発売
1,650円(税込)
新書判/208ページ
ISBN:978-4-04-112245-7
中学校から本格的に始めたバスケットボール。貧血と診断され、練習でもひとり追いつけず苦しいことも多かった名門・桜花学園時代。複数のチームからオファーがあったなか、自ら選んだデンソーアイリスへの入団。日本代表主将としてチームをまとめ、バスケットボール界初のオリンピック銀メダル獲得。一方、30歳を機に立ち上げたTRUE HOPEでアスリート兼社長としての活動をするなど、精力的に様々なことに挑む高田のポジティブ思考の原点がわかる!
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