相手の仕事に理解がない人とは一緒にいれない(松井)

『どの人にも同じ眼差しで接するようにと意識してきた』。松井玲奈さんが惚れ込んだ島本理生さん『よだかの片想い』【安川有果監督×松井玲奈さんインタビュー】_12
アイコと飛坂の出会いを作ることになる出版社勤務の同級生(織田梨沙)

──お二人とも、仕事モードに入ったときは、そこへの情熱と恋愛とを天秤にかけられてしまうようなこともありますよね?

松井「根本的にどんな人であっても、相手の仕事に理解がない人とは一緒にいれないですよね。例えば相手が忙しくしている時に、『なぜデートに行ってくれないの』みたいなことを言いだすと破綻しちゃうのと一緒で。結局は相手に対するリスペクトと理解が一番大事なんじゃないのかなあとは思います。そうやって考えると、飛坂もそんなに悪くないのでは。『仕事と私、どっちが大事なの?』論議じゃないですけど、一緒に居るために働くのに、それを言われちゃったら破綻しちゃうよね、みたいな。

飛坂さんとしては、アイコのことはもちろん好きなんだけど、『タイミング悪いよ』って思ってそうですね。多分、飛坂目線の物語にしたら、アイコは重い女の子に描かれるかも。立場が変わると見え方が変わりますよね」

安川「アイコからすると、自分の人生を映画にされようとしてるわけだから、真剣になって当然っていうところもあるし。そういうボタンの掛け違いじゃないですけど、そういうことで灯が消えていたみたいなことですよね。タイミングってとても大事」

――あのう、原作ではアイコの理解者として同じ大学院の後輩の原田君という存在があるんですけど、映画では青木柚くんが演じていますが、原作では次の恋人候補の匂いが強いのですが、映画ではもう一押し、足りない感じがするのですが。青木君推しとしては気になるところなのですが。

安川「青木さんのシーン、去年、東京国際映画祭での上映で二回上映して二回とも観客から笑いが起きちゃって」

松井「ええ? そうなんですか」

安川「私もその反応にはびっくりしたんですけど、アイコと飛坂の関係に無理が見えてくるタイミングなので、あの場面で緊張状態がふっと途切れて、お客さんからそういう反応が起きたのかな、と。フラれ役としてのわかりやすいキャラクターには決してなっていなくて、リアルに受け取ってもらえたのは、青木さんがすごく考えて演じてくれたからなんですよね。アイコと原田君のその後の関係も描きたい気持ちはありましたが、この100分の物語ではそこまでやらなくてもいいかなと。城定さんはとってもやりたがっていましたけどね」

松井「アイコが飛坂さんとはまた違う形で、原田君からずっと愛情を向けられていたと気づくシーンだと思っていて。ああいうことを真っ直ぐ言ってくれる人が人生で初めて現れたから、その初めての言葉に直面してどうしたらいいのかわからず、ピュアな女の子の部分が出てきてしまって、戸惑っているんですよね。この映画は、実はアイコはいろんな人からいろんな愛を向けられていることに気づく物語なんだと思います」

アザがあるということをフラットに描きたいと城定さんとは話し合った(安川)

『どの人にも同じ眼差しで接するようにと意識してきた』。松井玲奈さんが惚れ込んだ島本理生さん『よだかの片想い』【安川有果監督×松井玲奈さんインタビュー】_13
『どの人にも同じ眼差しで接するようにと意識してきた』。松井玲奈さんが惚れ込んだ島本理生さん『よだかの片想い』【安川有果監督×松井玲奈さんインタビュー】_14

――最後になりますが、お二人がこの映画を通して観客の方に伝わればいいなと思っていることを教えてください。

安川「『見た目問題』をテーマとして掲げるというよりは、主人公の日常に寄り添って描くことで、想いを馳せることのできる映画にしたい思いがありました。制作にあたって当事者の方のインタビューをたくさん読み、私も初めて知ったことがたくさんあります。みなさんが考えるきっかけにもなるといいなと思います。まずはこの映画をたくさんの方に見てもらいたい気持ちが強いです」

松井「一番は、普通の恋愛映画として、一人の女性の成長物語として見て欲しいなという気持ちがあります。映画の中のアイコは自分が思っている以上に、周囲の人に愛されていた、愛を向けられていた、受け入れてもらっていたということに気づいていくんですけど、おそらくどの人も、自分が気づいていないだけで、自分が思っている以上に、周りの人から想われていたり、受け入れてもらえていると思う。あの人も私のこと考えてくれているんだな、こういう優しいことをしてくれるんだなとかを考えたり、思い出すきっかけになれば嬉しいです」

よだかの片想い

『どの人にも同じ眼差しで接するようにと意識してきた』。松井玲奈さんが惚れ込んだ島本理生さん『よだかの片想い』【安川有果監督×松井玲奈さんインタビュー】_15

第159回直木三十五賞を受賞し、多くの作品が映画化されてきた小説家・島本理生が2012年に発表した恋愛小説に、主演の松井玲奈自身が惚れ込み、映像化が実現。デビュー作『Dressing Up』など、女性の内面を独自の視点で描き続ける安川有果監督の2作目となる。理系大学院生の前田アイコ(松井玲奈)は、顔の左頬にアザがある。小学校時代、アザに対する担任教師の過剰な反応を機に、人目を気にするようになったアイコは目立たぬように生きてきた。しかし、「顔にアザや怪我を負った人」をテーマにしたルポ本の取材を受けたことで状況は一変。本の映画化を熱望する監督の飛坂逢太(中島歩)との出会いがアイコの日常を大きく変えていくが…。

昨年の東京国際映画祭のアジアの未来部門に選出された。

原作:島本理生「よだかの片思い」(集英社文庫刊)
監督:安川有果
脚本:城定秀夫
出演:松井玲奈、中島歩、織田梨沙、藤井美菜、青木柚ほか

●9月16日(金)より新宿武蔵野館他全国にてロードショー公開

配給:ラビットハウス
©︎島本理生/集英社 ©︎2021 映画「よだかの片思い」製作委員会

映画『よだかの片思い』公式サイト

撮影/山崎ユミ

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