――有線と無線のイヤフォンの優劣はありますか? また、もしおすすめのイヤフォンがあれば是非お願いします。

Greg:難しい話ですが、Apple Musicの「ロスレス」と「空間オーディオ」を参考に説明しますね。
スタジオ音源の品質により近いロスレスは、Appleの公式サイトにも書かれているんですが、実は有線のイヤフォンじゃないと聴けません。
一方「空間オーディオ」という、3Dのような立体的な音楽体験を可能にする新しい技術は、AirPodsなどのBluetoothの端末でしか聴けません。
単なる音質で考えれば、現時点では有線の方が良いと思っています。ただし、これは全く異なる技術の話なので単純比較はできませんし、Bluetoothにはコードレスという利点があります。それぞれの好みにもよりますね。
おすすめとしては、Apple製品は意図的なイコライジングが少なく、楽曲本来のバランスに最も忠実で、一番透明感があるように感じます。あとはSONYの「WF-1000Xシリーズ」も良いですね。

日本トップレベルのレコーディング & ミキシングエンジニアによる、スマホで音楽を聴く最高の方法_3
1.AirPods Pro(Apple)- 30,580円(税込)
2.WF-1000XM4(Sony)- 33,000 円(税込)
3.AirPods Max(Apple)- 67,980円(税込)
  Greg曰く、Apple製品は「価格が高い順に音質が良い」とのこと
4.Clear MG(Focal)¥170,500(税込)
 「他のもので今まで聴いて素晴らしいなと思ったのはこれですね、かなり高価ですが」

――Gregさんが耳のケアのためにしていることや、 “聴く耳を鍛える”ためのトレーニングなどはありますか?

Greg:聴覚のケア方法としては、まずはクラブとか、すごくうるさいライヴとかには行かないです(笑)。もちろん仕事柄ライブには行くんですが、耳栓を付けたり、部屋の一番奥のところで聴いたり、音が大きい場所はなるべく避けます。
一度聴覚にダメージを受けたら、今の医療だともう回復は難しいです。元々、歳を取れば取るほど聴覚は下がるので、良くなることは有り得ないんですね。
「音楽を聴く耳を鍛える」ということを説明する面白いエピソードがあります。もう亡くなってしまったアル・シュミットという伝説的なエンジニアがいて、彼は80歳を超えてもなお現役でした。医学的な観点から考えると、その年齢では高音域の12〜14kHz以上などは聴こえていないはずなんです。それにも関わらずミキシングができたのは、何十年もやってきて体が覚えていたからこそ。そういうことが、エンジニアにとっての訓練だと言えます。
ミュージシャンやエンジニア、オーディオマニアも含めて、音楽をずっと聴いてきた人、とりわけ良い環境で聴いている人たちは、音の細やかな違いが分かるんです。

――最後に、スマホで音楽を聴いている人たちに、一言お願い致します。

Greg:ここまでにお話ししたような音質という観点を、リスナー側にもより意識してもらえたら、それは私のようなエンジニアにとっても嬉しいことです。
おすすめした設定方法やイヤフォンなどで、それぞれのスタイルに合わせて、音楽を楽しんでほしいですね。

撮影/長谷部英明
編集協力/株式会社ロト(佐藤麻水)