スマホで聴く音楽
――早速ですが、iPhoneのようなスマホで私たちが聴いている音は、スタジオで作り込まれた音と同じなのですか?
Greg:率直に言うと、その二つは同じではありません。順を追ってその理由を説明しますね。
プロの現場ではまず、音の反射や吸音まで計算されているスタジオで、アーティストの歌声や演奏をレコーディングします。
次にそのレコーディングされた音を、私のようなエンジニアが、ミキシング作業で一つの楽曲にまとめ上げます。
最後にマスタリングという作業があります。ストリーミングやCD、レコードなど、全てのフォーマットにおいて「同じようなテイストで聴こえる」ように、音質を最適化します。
ここまでの工程を経た音源は、もちろん音質的にクオリティの高いものになっています。しかし、その音源が常に“そのままの状態” でリスナーの耳に届いている、とは言い切れません。
特に音楽をスマホで聴く場合、データ容量の関係で、音楽を「圧縮フォーマット」で配信する必要があります。音源をMP3のような圧縮フォーマットに変換すると、まず高音域がバッサリ削られます。そして、音楽において大切な「倍音」も削られてしまいます。
――倍音とはどういうものでしょうか?
Greg:倍音をすごく簡単に説明すると、例えばピアノで「ラ」の鍵盤を押した時、当然「ラ」の音が聴こえますが、正確には「ラ」以外の音も鳴っているんです。その「ラ以外の音」がいわゆる倍音なのですが、実は人間の耳ではほとんど聴こえません。
ただし、「聴こえないけど感じることはできる」。ライブを見て鳥肌が立つとか、歌声に感動するとか、そういった感情が揺さぶれるものは“倍音から来ている”とも言えます。ちなみに、記録媒体としてはレコードが最も多く倍音を含んでいます。
――音楽配信サービスでは、重要な音がかなり削られてしまっているということでしょうか?
Greg: その問題に対して、配信会社はそれぞれ独自のフォーマットを作り、対応しています。最近AppleがALACという新フォーマットを作ったんですが、それはMP3だと削られてしまう倍音をある程度守ることができ、なおかつそこまでデータ通信の容量を取らない、という強みがあります。それが “非圧縮”フォーマットである「ロスレス」です。
SpotifyはOGGというフォーマットです。今の時代はみんなスマホで、なおかつ移動しながら音楽を聴いていますよね。OGGは、例えば電車に乗っていてトンネルや地下で電波の量が減った時に、ビットレートが自動的に最適になるように変動します。