スマートにやっていては誰も助けてくれない
その後もホームコートMCを続け、2016年に始まったBリーグでプロ化したシーホース三河の会場でも盛り上げている。FMラジオでは今、平日の昼間に2時間半の番組を持つ。
学生時代を過ごしたオレゴン州に同行する海外ツアーが企画される充実した日々。そんな中、2018年秋に父親が急逝した。
「ブドウ畑を売るという話もあったんですが、四十九日を迎える前日に母親に初めてコートの構想を話したんです。ブドウ畑は母親がメインでやっていたんで。親父がいなくなった上に、この畑まで手放しちゃうというのは相当寂しく思ったみたいで、最初は驚いていたけど、面白そうねって話になって」
すぐに家族と整地を始めた。
「ブドウ棚を支える太い石柱が200本くらい刺さっていて、一本を抜くだけで1時間くらいかかった。その嘆きをSNSで呟いたら、10人くらいが手伝いに来てくれて、その光景をアップしたら、重機があるから持っていくよってユンボが来てくれて、早く整地ができた。すごくないですか、これ。
『自分はバスケのことは知らないけど、豊川のために面白いことをやろうとしているのを応援したい』っていう人もいた。バスケへの恩返しと思っていたのが、故郷への恩返しにもなるかもしれないと感じたんです。
スマートにやっていると周りは手伝いようがないですけど、困っていると寄って来て手伝ってくれる人がいる。困っているから、人が巻き込まれてくれる。するともう、僕一人じゃなくて、みんなの夢として共有できるじゃないですか」
このプロジェクトの意味と可能性を感じた。
2020年8月23日、コービー・ブライアントとコバタクさんの誕生日に合わせてオープンした。ストリートバスケットをイメージし、「お金を払ってもらって、バスケをやってもらう感覚ではない」とコートの無料開放にこだわった。
基本的に「カフェ」と捉え、その売り上げとコートを囲む金網やゴールなどへの広告費で、建設費用の借金を返して維持費を賄っているため、誰でもコートが使えるという仕組みだ。
だが最近、少しルールを変え、飲食持ち込みを不可にした。
「水や水筒くらいならいいと思っていたんですが、エアコンの効いたカフェの席を占領してマックシェイクとか飲まれるとね。それを注意するのって本当に悲しくて、心が疲弊しちゃって……。どういう成り立ちの施設なのかを発信しているんですけど、理解してくれる人がだんだん少なくなってきていて」
見学にきた業者から、利益を出せるように、と経営のアドバイスを受けることもある。
「親切心からなんでしょうが、それは別に僕がやりたいことじゃない。『自分の街になにもない』って不満を持つ人っているじゃないですか。だったら自分たちで好きな街に変えていけばいい。グレパーでそういうのを見せたいんです。
年をとって、コーヒーを飲みながら『リバウンド取れー!』と言ってたい。それで『うるせーな』『あのジジイ、オーナーらしいぜ』って言われたいですね。で、最後は『俺にやらせてみろ』って。超かっこいいじゃないですか」
夢はまだ始まったばかりだ。
取材・文/松本行弘