人間のトレーナーが行うサポートを機械で
バーベルのトレーニングは、腕、下半身、胸の筋肉など、バーベルひとつでいろいろな部位を鍛えることができる。しかし、種目を変えるごとにプレートを全て付け替え、バーベルの高さを変えなければならず、実際のトレーニング時間に比べて準備の時間のほうが圧倒的に長くなることもある。
「我々がまず実現したかったのは、セットアップの全自動化です。ユーザーはここでトレーニングするだけ。プレートを付けたり、種目に合わせてバーベルの高さを変えたりするのは、全て機械にやってほしいと考えて設計しました」(開発担当者)
これを実現する上で欠かせない部品の1つに『ボールねじ』がある。ボールねじはもともと、工場や倉庫で重いものを運ぶために利用されている。このマシンに採用したボールねじはかなり大きなものだが、昔から使われていて信頼性が高いという。
ただし、ボールねじの動き方はそれを回転させるモーターに送る命令で大きく変わる。そこで、ボールねじの動きをコンピューターで制御し、さらにAIも活用している。「バーベルを持ったら台を下げる」「バーベルを載せたら台を上げる」など、ユーザーの動作に合わせた知的な動きができるようにした。
「マシンの物理的な機構はすごくシンプルで、古くからある技術を組み合わせています。しかし、それをコンピューターで、人間のトレーナーがしているようにサポートするという仕組みは、これまでになかったと自負しています」(開発担当者)
「アシスト機能」の追加に苦労
トレーニングマシンの製作には、東京都葛飾区の町工場・株式会社小川製作所が協力した。開発担当者の設計を形にできる企業を探した結果、紹介を経て同社に辿り着いた。
そして、トレーニングマシン初号機が2019年4月に完成。開発担当者が見込んだ通り、ボールねじの機構がバーベルの支持にも有効であると判明した。一方で失敗もあり、ユーザーがバーベルを持ち上げる際に、台を下から追従させるアシスト機能は実現できなかった。今回取材したのは、空間もプロダクトの一つとして設計された2号機で、そちらにはアシスト機能が備わっている。
「上級者になればなるほど、疲れてきたところから追加でさらに何repか(バーベルを上げ下げする回数、1repで1往復)やりたいというニーズがあるんです。パーソナルトレーニングでも、限界が近づいて来ると『もう一回』とアシストするんですけど、あれを機械で再現したかった。2号機では、それが実現できるようになりました」(開発担当者)
ボールねじは、正確な位置に正確なスピードでものを運ぶことには長けているが、人間が出している力に合わせた適切な力で制御するのは難しい。またアシスト機能改善やソフトウェアの大幅アップデートが必要となるなど、開発は想像以上の労力を要した。