行政SNSに求められるもの
政府や省庁のSNSは、どこまで親しみやすさを追求するべきなのだろうか。
大切なのは、「面白い動画を作ること」と「行政として必要な情報を届けること」を混同しないことだろう。
農水省のBUZZ MAFFにも、これまで一定の実績がある。2025年10月に農畜産業振興機構が掲載した農水省広報室への取材記事によれば、コロナ禍で牛乳の消費を呼びかけた「プラスワンプロジェクト」や、水産業を応援する「#食べるぜニッポン!」などで動画を活用してきたという。
こうした取り組みは、SNSの拡散力を行政の課題解決につなげようとした事例だ。その意味で、官僚がYouTube動画を作ること自体を否定すればよいわけではない。
問題は、発信が注目されること自体を目的にしていないかという点にある。
再生回数や「いいね」の数は、広報の成果を測る一つの目安にはなる。しかし、100万回再生された動画でも、視聴者が何を理解したのかがわからなければ、その効果を十分に評価できない。反対に、再生回数が少なくても、制度の対象者に必要な情報が届き、疑問や不安の解消につながったなら、それは行政広報として価値がある。
さらに重要なのは、政策に対する疑問や批判が生じたときの対応だ。普段は親しみやすい動画を投稿していても、国民の関心が高い問題について説明が不十分であれば、広報全体への信頼が損なわれかねない。
SNSが広報の中心的な手段の一つとなった今、行政には伝え方の巧みさだけでなく、発信する情報の正確性、透明性、そして国民の疑問に答える姿勢が求められる。
そのうえで、動画の制作費や職員の業務負担、政策への理解をどれだけ深めたかといった成果を検証することも必要だろう。農水省の約3年前のダンス動画をめぐる今回の議論は、単に「公務員が仕事中に踊っていいのか」という話にとどまらない。
政府のSNSに求められるのは、親しみやすさだけではないだろう。必要なときに、必要な情報を正確かつわかりやすく届けることも、行政広報の重要な役割である。
「バズる政府」になることと、「信頼される政府」になることは、必ずしも同じではない。その違いをどう埋めていくのか。今回の議論は、政府SNSのあり方を改めて考える機会になりそうだ。
文/集英社オンライン編集部













