コロナ禍で会長を辞任する

話はコロナ禍までさかのぼる。人類が初めて遭遇する病原体、新型コロナウイルス。高齢者や基礎疾患を持つ者にとっては死に至る可能性が高く、2020年の3月30日は、あの志村けんさんが新型コロナ感染による肺炎で亡くなったと発表された。国民的コメディアンの死。中国で始まった謎の感染症はもはや対岸の火事ではなく、すぐそこまで来ている。戦慄を覚えた人も少なくなかったはずだ。当時はワクチンもなかった。

翌日の3月31日。日付が変わった夜更けにスマホが鳴った。番号表示には「加藤梅造」。私が当時会長を務めていたライブハウス「ロフト」グループの社長だ。深夜の電話が良い知らせのわけがない。

「3月20日のロフトヘヴンの出演者から感染者が出ました」

まさか! よりによってウチの店から?東京と大阪に10店舗あるロフトグループのひとつである渋谷ロフトヘヴン。20日のイベントの際も「三密」を避けて、通常100席の椅子を半分に減らし、観客はマスク着用、定期的な換気も行っていた。それが昨日になって、出演者2名の感染を伝える連絡が保健所からあったという。ライブハウス「ロフト」の理念は「出演者のツバがかかるくらいの濃密な空間」。観客の中にも感染者はいるかもしれない。

このことを公表すべきか。「ひと晩考えさせてくれ」。その夜は一睡もできなかった。

明けて4月1日の朝。某有名脚本家が、前日に新型コロナ感染を発表。やはりコロナは近くまで来ている。

ほどなくして梅造から連絡。その脚本家が、3月20日のロフトヘヴンに来ていたと知らされる。観客の1人だったと……。そこで罹患した可能性が高い。

なんということだ。やはり他の観客も感染している可能性がある。その夜、感染拡大防止のため、ロフトから感染者が出たことを発表した。グループ全店舗は無期限の休館。私は全ての責任を負って、会長を辞任した。

それから数日の間に、3月20日のイベントの観客2名とその家族1名、店のスタッフ1名の感染が判明。また私がテレビの取材に応じた際、ディレクターの依頼でマスクを外して話したところ、「マスクもしないで話している。これだからライブハウスは……」とネットで猛烈に叩かれる。

ロフトプラスワンの店内 写真/ロフト提供
ロフトプラスワンの店内 写真/ロフト提供
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ライブハウスでのクラスター(集団感染)発生は全国で2件目だったのだが、有名税でロフトが「日本で初めてクラスターを出したライブハウス」の悪名を馳せた。