「辞めた直後は勝ったと思っていました」

東京都内に暮らす58歳の西野さん(仮名)は、55歳のとき、30年以上勤めた会社の早期退職募集に応じた。

管理職だった西野さんが受け取った退職金は、割増分を含めて約2500万円だった。

「会社から2500万円という金額を提示されたときは大きかったですね。50代になって仕事にも疲れていたし、あと5年会社に残ったところで、この先、役員に上がって会社に残れるわけでもない。だったらまだ体が元気なうちに早く辞めて2500万円をもらって、何か新しい挑戦をしたほうがいいんじゃないかと思いました」

退職した翌朝、目覚まし時計をかけずに起きた。満員電車に乗る必要もない。会議も部下からの電話もない。

「平日の朝にコーヒーを飲みながら散歩している人を見て、『俺もこっち側に来たんだ』『平日、仕事のない日に飲むコーヒーは味が違う』などと思っていました。大げさですけど、辞めた直後は『勝った』と思っていたんですよね」

「平日、仕事のない日に飲むコーヒーは味が違う」西野さんが楽しみにしていた朝一のドリップコーヒー(写真/本人提供)
「平日、仕事のない日に飲むコーヒーは味が違う」西野さんが楽しみにしていた朝一のドリップコーヒー(写真/本人提供)
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半年ほど休んでから、条件の合う仕事を探す。その程度の計画だったという。

ところが、58歳になった現在、西野さんは「2500万円という数字しか見ていなかった」と振り返る。

退職前、西野さんの年収は約800万円。もちろん、その金額がそのまま手元に残るわけではない。それでも60歳まで働いていれば、あと5年間にわたって毎月給与が振り込まれていた。

「そのことを、辞めるときは不思議なくらい考えていなかったんです」

西野さんは電卓を叩きながら、初めて気づいたという。

「2500万円を『もらえるお金』として見ていました。でも会社に残れば、毎年給料をもらえる。退職金のプラスばかり見て、辞めることで失う収入をちゃんと計算していなかった」

もっとも、2500万円のすべてが早期退職による『上乗せ』だったわけではない。通常の退職でも受け取れた退職金が含まれており、厳密には割増分と、会社に残った場合に得られた給与や将来の退職金などを合わせて比較する必要がある。