右派指導者にもスクープ取材

難民キャンプ(撮影/今泉千尋)
難民キャンプ(撮影/今泉千尋)

ここから地を這うような取材が始まった。コロナ禍を挟み、何度も自費で現地に向かった。取材対象は、被害に遭ったロヒンギャ難民だけではなかった。加害の側にあり、過激なロヒンギャヘイト活動によって解散を命じられた仏教右派のマバタにもアプローチした。

マバタは国軍と密な関係にあり、ロヒンギャの虐殺を裏で支えた黒幕とも言われている。政治にも関与しており、女性に対して「出産間隔」に関する規制を講じ、強制堕胎も認める「人口抑制保健法」を起草している。

マバタの広報誌『ターキートゥエー(釈迦族の血)』には「ロヒンギャは違法移民のベンガル人で仏教徒の女性をレイプしモスクを勝手に建設している」等々の裏付けのない記事が記載され、ロヒンギャに会ったこともない仏教徒の差別感情を大きく扇動している。

今泉はロヒンギャを差別し続けるターキートゥーエーの読者に「この雑誌はヘイトスピーチではないか」と質し、さらにはマバタのカリスマ的指導者「ミャンマーのビンラディン」ことアシンウィラトゥ(50)にも接触している。

「マバタの人たちも話す限りでは、とても礼儀正しくて温和な方々です。こんな人たちが、どうして盲目的にロヒンギャを攻撃するのかと思うのですが、しかし、換言すると普通の人間がいともたやすく扇動されてヘイトクライムを犯すということが、あらためて突き詰められました」

アシンウィラトゥの接触など、貴重なスクープも含めた豊富な取材から、本書はルポルタージュとしても成立できたと思われるが、敢えて小説(ノンフィクションノベル)というかたちにしたのは、なぜだろうか。

「当初は私もルポルタージュとしてロヒンギャを描こうと思っていましたが、担当編集の方に、これは一冊にする上で小説で書きませんかと言われて、そういうやり方があるのかと思って挑戦しました。やってみたら普通の取材記事を書いている時と、使う脳ミソの部分がまったく違うと感じるくらい苦労しました。

ノンフィクションの場合は、どれだけファクトが集められるかが勝負で、その集められたファクトの中で書くというある意味制限があるのですが、小説の場合は、自分自身がある意味、創造主になるので、ロヒンギャの何を書きたいのか、どう思っているのかというのをすごく考えさせられる作業です」