40 年以上通っている常連も

そば千には、昔から通い続ける客も多い。長い人では40年以上になるという。

「50代くらいの人が、『俺は高校生のときから通っているんだよ』と言ってくることも普通にあります。そういう方たちは、店を受け継いで続けていることを喜んでくれます。『昔と味が変わっていないね』と言ってもらえることは、なによりうれしいです」

現在、飲食店を取り巻く原材料費や光熱費の上昇は激しい。そば千でも、価格をなるべく抑えるために仕入れ方を工夫しつつ、なじみの業者とのつながりも大切にしている。

「仕入れの値段に関しては、昔から付き合いのある業者さんが、結構頑張ってくれています。でも、僕らも、なるべく適正な値段で仕入れようと頑張る。お互いに、そういう関係で成り立っています」

ただし、今後の価格を左右するのは物価高だけではない。店舗は賃貸のため、家賃が上がれば、その分を商品の値段に反映せざるを得ない。

ここまでを見ると、そば千は昔のやり方を一切変えない店にも思える。しかし、前田さんは昔ながらの営業方法を守るだけでなく、客から見えない部分には、積極的に新しい技術も取り入れている。

「変えるんだったら、『見えないところを変える』というのが、うちの考えです。オペレーションの部分とか、裏の設備の部分ですね」

店には新しい防犯カメラを導入。さらに、売り上げや商品の販売数などのデータを管理し、AIも使って分析しているという。

前田さんが作成したシステムでの管理表
前田さんが作成したシステムでの管理表
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「どの商品がどれだけ売れているか、平均がどうなっているかといったものは、AIも使っています。自宅に自分でサーバーも立てています。全部、自前で組んで、売り上げなどを管理しています。逆に、見えないところは、そういうふうに新しくしているんです」

前田さんは今後も、そば千を残していきたいと話す。一方、店側の努力だけでは解決できない問題もある。懸念しているのが、建物の老朽化だ。建物が古く、今後いつまで使い続けられるかわからないのだ。

「僕らが続けたいと思っていても、建物の老朽化や家賃など、外的な要因がありますから。でも、仮に現在の建物を離れなければならなくなった場合も、できれば東神田周辺で営業を続けたいですね。
ほかのそば屋さんで、『うちが引き継ぎたい』という人もいるそうなんですが、誰かに売るつもりは、まったくないです。いまのメンバーでやるから、そば千なんです。うちのつゆは、いまのメンバーじゃないと絶対に作れないですから」

前身の店の時代を含め、人が変わりながらも50年以上、そば屋として引き継がれてきたそば千。変わらないことと、変えること。その線引きを見極め続けることが、老舗を残すということなのかもしれない。

取材・文・撮影/ライター神山