高市早苗氏自身の経歴との断絶 

ここで驚かされるのは、高市早苗氏自身の経歴との断絶である。高市氏は長年にわたり総務大臣を務めた経験を持つ。総務省、特にその情報通信分野は、経済産業省とは全く異なる経済哲学を持つ省庁だ。

経済産業省が特定のプレイヤーをえこひいきする「産業政策」に傾倒するのに対し、総務省は市場のルールを整備し、企業間の公正な競争を促す「競争政策」を重視してきた。

「高市官邸は経産省が支配」なぜアベノミクスの負の遺産を引き継ぐのか? 増税、赤字国債、ムダ遣い志向色濃く _2

携帯電話料金の引き下げを巡る一連の政策は、政府が直接価格に介入するのではなく、新規参入を促し、事業者間の競争を活性化させることで、結果として国民の利益を実現した好例である。

競争政策こそが、経済全体の活力を生み出し、持続的な成長を実現するための王道であることは、数多くの実証研究が示している。

大盤振る舞いの財政出動は経済の足を引っ張る 

例えば、テオフィール・アイヒャーとティル・シュライバーが2009年に発表した論文『構造政策と成長:自然実験からの時系列証拠』は、旧共産圏の移行経済諸国を分析し、市場の質を高める「構造政策」が10%改善するだけで、年間経済成長率が2.5%も向上するという劇的な結果を報告している。

これは、政府が特定の企業を選ぶのではなく、市場という土壌そのものを豊かにすることの重要性を物語っている。

また、ダンコ・タラバルとルイス・パントゥオスコによる2022年の研究『改革の補完性と成長:証拠とメカニズム』は、単発の政策変更ではなく、税制、規制、労働市場にまたがる「広範な改革パッケージ」こそが、年間1.2%の成長押し上げ効果を持つことを明らかにした。

経済産業省が進めるような、半導体やGXといった個別分野への断片的な介入が、いかに近視眼的であるかを示唆する研究である。

さらに、レオネル・ムイネロ=ガロとオリオル・ロカ=サガレスが2011年に発表した論文『経済成長と不平等:財政政策の役割』は、政府の経常支出や直接税が経済成長を抑制する危険性を指摘している。

つまり、経済産業省が主導する大盤振る舞いの財政出動は、将来の増税を通じて、まさに経済の足を引っ張る行為に他ならないのだ。