2024年は「過酷な日々だったのかも」

撮影に入る前に台本を読み込み、たくさんの付箋をつけて打ち合わせに臨むなど、杉咲は熱量をもって本作の撮影に挑んだという。

――演じた由嘉里の印象を教えてください。

オファーをいただいた3年前、私が由嘉里に惹かれたのは、死生観や他者の領域をまたいででも自分の気持ちを伝えるような強さでした。

それはある種、傲慢だったり、押し付けがましかったりもすると思うのですが、そういう由嘉里が好きだなと思って、この役を演じたいと思いました。自分だったらぐっと踏みとどまる気がするけれど、由嘉里は心の中にある全てを発露せずにはいられない。そんなところが、なんだか憎めない人だなと思いますね。

映画『ミーツ・ザ・ワールド』で主演の杉咲花 撮影/入江達也
映画『ミーツ・ザ・ワールド』で主演の杉咲花 撮影/入江達也

――印象的なシーンが多いのですが、杉咲さんの心に突き刺さったセリフはありますか。

原作を読んだ時に、金原さんの書いた口語的なやり取りや解像度の高い言葉を演じられる喜びと、それをどこまでリアリティを持ってできるんだろうかという恐れが同じぐらいあって、すごく緊張していたんです。

でも実際に演じてみると、本当に自分の体験したことのような感覚になっているときがあって。だからこそ、まだ客観視できてないところもあるのですが。

でも、後半のシーンで、脚本の打ち合わせの際に皆さんと議論して、当初なかった原作にあるセリフを話すことになったのは印象に残っています。

もしかしたらそのセリフを言わなくても、映画を観てくださる方々は汲み取ることができるかもしれないけど、でも由嘉里が言語として消化するレベルに至ったという、その心情変化の段階を伝える意味ですごく必要なセリフだと思ったし、自分は大好きなところで。

――そのセリフを含めて、入念な準備をされ、打ち合わせもされたそうですね。

たくさんアイデアを出したというよりは、2時間弱の映画という尺の中に、この物語がすごいエネルギーを帯びて閉じ込められていたことにとても感動したんです。自分にできることがあるとすれば、その次の段階として、由嘉里の気持ちをいつ、どれくらい音にして発するのか。そこを突き詰めていくことで人物造形がより研ぎ澄まされたものになっていったらいいなという気持ちでした。

映画『ミーツ・ザ・ワールド』で主演の杉咲花 撮影/入江達也
映画『ミーツ・ザ・ワールド』で主演の杉咲花 撮影/入江達也
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――この役を演じた感想を改めてお聞かせください。

撮影から1年以上経つのですが、なにか夢を見ていたような感じがあるんです。

もしかしたらそれは、本作に描かれている由嘉里の死生観に触れ続けたことで、自分自身とも向き合う時間が増えて、まだ客観視できていない部分があるということなのかもしれません。苦しい時間でもあったので。

だけれど、分かり合えない他者どうしも、近くにいることができるのではないかという祈りのようなものが込められた本作に救われた部分もすごくあって。

そういった側面が、誰かの琴線に触れてくれたとしたら、すごく嬉しいなと思います。

日本を代表する演技派俳優である杉咲が、熱意をもって挑んだ本作。彼女の新たな代表作となるのは間違いないだろう。

「ミーツ・ザ・ワールド」
(C)金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
配給:クロックワークス
10月24日(金)全国公開

(前編はこちら)

取材・文/羽田健治 撮影/入江達也