20勝投手がいなくなった日本球界

昔の話になるが、私が巨人のショートのころ、後輩に安原達佳という投手がいた。

岡山県立倉敷工業出身で、2年目の1955年には先発の一角として12勝8敗の活躍で防御率1.74。翌年はエース・別所毅彦の27勝に次ぐ15勝7敗でリーグ連覇に貢献した。

身長179センチで、スナップを利かせた速球には力があり、指先が風を切るようなピシッという音がベンチまで聞こえた。

カーブ、シュートもキレがあって、若手の有望株として頭角を現したが、その安原が2年連続で2ケタ勝利を挙げたオフの契約更改で「私の言い分も聞いてください」と粘ったら、応対した球団代表に「お前、何様だ。文句があるなら20勝を続けるようになってから言え!」と一喝された。

昔のプロ野球はそれほど厳しかったが、いまは2013年の田中将大(楽天)の24勝を最後に20勝投手が出ていない。

2023年に3年連続で投手の主要タイトル4冠を独占し、年末に大谷に続いて12年契約471億円でオリックスからドジャースに移籍した山本由伸でさえ、2021年の18勝がキャリアハイ。最近のエース級も2ケタ10勝ラインを超えれば大喜びしている。情けない。

写真/shutterstock
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大リーグで中4日のローテを守れるのか 

そこで次の大物・佐々木だが、5年目にもなって、1年間満足に投げ切ったことがないのに、ポスティングでアメリカに行きたいと契約交渉期限ギリギリまで粘るなんて間違っている。

2023年も先発の柱だった佐々木がケガや体調不良で長期間休まなかったら、ロッテはもっと楽にCSに進出し、展開によってはパ・リーグ優勝と日本一の可能性もあったかもしれない。

ポスティングシステムでメジャー移籍をめざす佐々木 写真/共同通信社
ポスティングシステムでメジャー移籍をめざす佐々木 写真/共同通信社

いつも言うように、23歳の若さでこんなにケガや体調不良が多く体力のない投手はメジャーでは通用しないし、ポスティングで行っても、すぐ壊れて帰ってくるだろう。

たしかに192センチの長身で160キロ超のスピードと鋭いフォークボールを投げる素材は優れているが、中南米から身体能力の高い若い選手が集まるアメリカのマイナーリーグには160キロ級のスピードの投手はいっぱいいる。ただ彼らはコントロールが悪く、変化球の精度が低いので、なかなかメジャーに上がれないのだ。

それに第一、大リーグでは1週間や10日に一度しか投げられず、長期連戦が続く過酷な遠征に耐えて1年間投げ切ることができない投手は使われない。

それでは多国籍集団のチームの中で、平等ではないからだ。その平等の意味が日本人はわかっていない。

それはどういう意味かというと、大リーグでは5人か6人で先発投手のメンバーを組み、原則中4日でシーズンを乗り切ることになっている。

そんな社会で、日本から来た投手だけ中1週間や10日の休養をとってベストコンディションで投げさせたら、ほかのローテーション投手にコンディショニングの負担をかけ、結果として成績や年俸査定が不公平になるからだ。そんな世界に、毎年のようにケガや体調不良で長期休暇を取るいまの佐々木が飛び込んで通用するはずがない。

アメリカは日本よりいいところだという保証はない。多民族社会だから、いろいろな問題があって、それらを解決するために法律がすべてに優先するのだ。その厳しい現実を、これまでアメリカに行った日本人選手たちが後輩や野球界に伝えないから、誤解や間違いが起きるのだ。

大谷人気でアメリカ人はみんな日本人選手にやさしいと思うだろうが、力のない選手がひとりで移籍したら誰も応援をしてくれないのが現実だ。