「鉄道の代替はバスで」が難しい現実

筆者は、勤務先である千葉県の大学へ通うために、2022年秋に開業した「バスターミナル東京八重洲」を定期的に利用している。5分おきくらいに次々と発着する高速バスを見ていると、その隆盛ぶりが際立って感じられ、全国的な運休・廃止の傾向はここからは読み取れない。とはいえ、実際には東京駅のバス乗り場だけを見ていては気づかない事態が進行していることをあらためて思い知らされる。

羽田空港リムジンバス 写真/shutterstock
羽田空港リムジンバス 写真/shutterstock
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現在、日本の各地、とりわけ地方では、JRを中心に深刻な赤字路線が増加。鉄道の維持が困難だと思われる路線が次々とクローズアップされている。その代替手段がバスへの転換だが、「2024年問題」の前後でこれだけ人手不足による運休や廃止が続くと、いずれ代わりのバス路線でさえ維持できないという、「移動の空白地帯」が各地に生まれることが予想される。

北海道では、北海道新幹線の延伸による並行在来線のJR函館本線小樽〜長万部間のバス転換が決定しており、しかも開業が予定されていた2030年(実際にはさらに遅れることが既成事実化している)を待たずにバス路線への転換が模索されている。

ところが、北海道各地ですでにバスの運転士不足が深刻で、前述のように多くのバス路線が減便や廃止になっているため、バス会社が運行を引き継ぐことはきわめて難しくなっている。鉄道の廃止が決定し、それを引き継ぐバスのめども立たなければ、沿線の倶知安やニセコなどは、倶知安に設置される新幹線駅を除けば地域の足は壊滅しかねない。あれほど外国人観光客でにぎわっているにもかかわらずである。

同じく運転手不足に悩むタクシー業界では、大都市圏の一部でもライドシェアの解禁が始まっているが、地域の足の担い手であるバスの運転士をどう確保するか、これは一事業体だけでは解決しそうもない。より広い事業体や自治体、国などによる総合的な対策が必要となってきている。根本的な解決法に着手しなくては、ごく限られた黒字の路線以外、国内から公共交通機関が消えていきかねないのである。

文/佐滝剛弘

『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)
佐滝剛弘
『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)
2024年9月6日
990円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4121508218
東京、京都、ニセコ……訪日観光客の増加によるオーバーツーリズムの弊害が日本各地で問題となっている今、日本政府が目指した「観光立国」とは一体何だったのか、検証すべき時期に来ている。人口減による人手不足や公共交通の減便といった問題をはじめ、物価の高騰、メディアの過剰報道など、観光を取り巻く環境は楽観を許さない。観光学の第一人者が豊富な事例をもとに、改めて観光の意義と、ありうべき日本の観光の未来を問い直す。
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