石原軍団に銀座のクラブで遭遇
――高知さんが俳優としてデビューした頃の業界は、どんな感じでしたか?
平成にはなっていたけど、雰囲気はバリバリの昭和でしたよ。今でも覚えているのは、役者仲間と銀座のクラブへ行ったときに、なぜか俺らの席にホステスさんが全然来てくれないことがあってさ。それなりに高級な店だったのになんだと思っていたら、向こうの席でキャッキャ楽しそうにしている団体客がいたの。あいつらのせいか……と、しばらく待っていたら、俺たちの席に豪華なフルーツの盛り合わせとヘネシーが置かれて、「あちらのお客さまからです」って。あれ、知り合いか、と思ってよく見たら、その団体客、石原軍団だったんだよ。だから店中のホステスがそっちに行ってたの。
――それで、お礼を言いにいったんですか?
もちろん憧れの人たちだからね。「ありがとうございます!」ってお礼を言いに行ったら、舘ひろしさんが「近頃の役者は個性がないから、遊びも豪快にやって、いい芝居をしてください」って。もううれしくてね。まだ駆け出しの役者だった俺たちのことを知っていたのか実際にはわからないけど、石原プロモーションの小林正彦専務(当時)も一緒にいたから、耳打ちしてくれたのかもしれないな。ただ大変なのはそのあとよ。いただいた大量のフルーツとヘネシーが目の前にあるんだから。
――残すわけにはいかないですよね。
こっちも大人数ではなかったし、ホステスさんはみんな向こうにいるから一緒に飲むこともできないし。もう必死で飲んで食べて、腹パンパン。それで、やっと食べきって飲みきったと思ったら、また「あちらのお客さまからです」って。俺たちがあまりに必死で飲み食いしていたもんだから、おかわりをくれたんだよ。あんなにフルーツと酒を一気に飲み食いしたのは、後にも先にもないね。いい思い出だよ。
――芸能界の洗礼ですね。
いい思い出だけじゃなく、めちゃくちゃなこともたくさんあったから。今考えると、歪んだ認知だったと思うことも数えきれないぐらいある。だから、昔は昔、今は今、その時代に合わせて生き方や振る舞いも考えなくちゃいけない。昔がいいとか、今はダメだとか、時代をずらして考えるのは本当によくないよ。今の時代、派手な遊びをしていなくても、いい芝居をする役者はいくらでもいるんだから。