『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』
シドニー・オペラハウスの建造が「当初5年の予定が14年、総工費が15倍」に膨らんだ計画立案の悲劇から学ぶこと
大小問わず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子を揃えられるのは0.5%に過ぎない。人間は何かを一発で成功させるのがとても苦手な反面、工夫を重ねるのは得意で、懸命な計画立案者は人間のこの基本的性質を踏まえて、試行と学習を何度も繰り返す。
予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かしたベストセラー『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』より一部抜粋、再構成してお届けする。
『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』#1
「性急」な着手で何が起きるのか?
ケイヒルは進行を急がせた。計画がどんな状態であろうと、1959年2月には建設を開始する、と宣言した。州選挙が1959年3月に控えていたのは、偶然ではなかった。とにかく建設を始めて、「私の後任が中止にできないところまで工事を進めておけ」と指示した。
そしてまさにケイヒルの思うつぼになった。彼が1959年10月に亡くなったとき、オペラハウスの建設は着々と進んでいた──ただ、何を建設しているのかは誰も知らなかった。最終設計はまだ決定されず、図面さえ引かれていなかったのだから。
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その間、ヨーン・ウッツォンは作業を進めながら、前途多難を痛感していた。プロジェクトがまだ製図段階にあったなら、何も問題はなかった。だがすでに建設が進んでいた。いずれ未解決の問題や予想外の難題が浮上して、遅延と赤字の悪循環に陥るのは目に見えていた。
ウッツォンは奮闘し、当初案よりもかなり直立した、巧妙な設計を考案して、曲面状のシェルを立たせるという難問をとうとう解決した。しかし、大惨事を避けるにはもう手遅れだった。
性急に着工したせいで、コストが急激に積み上がっていった。完成した部分をダイナマイトで爆破解体してやり直すこともあった。案の定、プロジェクトは政治スキャンダル化した。新任の担当大臣はウッツォンを軽んじ、虐げて苦しめ、報酬の支払いさえ拒否した。
ウッツォンは建設途中の1966年、シェルがまだほとんど立てられず、内装も手つかずの状態で、事実上解任され、交代させられた。彼は家族とともに極秘出国し、報道陣を避けるために、ドアが閉まる寸前に飛行機にすべり込んだ。
1973年10月、オペラハウスはイギリス女王エリザベス2世によって開かれた。音響はオペラに不向きで、主に建設工程の混乱と構想者のウッツォンの解任のせいで、構造的欠陥も多かった。この華々しい建物を生み出した当のウッツォンは式にも行かず、その名が言及されることもなかった。
ウッツォンは二度とオーストラリアの地を踏むことなく、完成した傑作をその目で見ないまま、2008年に祖国で亡くなった。まさにオペラのような悲劇である。
文/ベント・フリウビヤ 写真/shutterstock
BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?
ベント・フリウビヤ、ダン・ガードナー 、櫻井祐子 (翻訳)
2024/4/24
1,980円(税込)
400ページ
ISBN: 978-4763140371
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予算内、期限内、とてつもない便益――
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「本書を読まない人は、危険を覚悟せよ」
【目次】
■1章 ゆっくり考え、すばやく動く
人は危険なほど「楽観的」になる
もっと「前」に時間をかける
■2章 本当にそれでいい?
人は慎重に考えるより早く1つに決めたい
常に「ベストケース」を想定している
■3章 「根本」を明確にする
「なぜそれをするのか」をまず固める
目的を見失うと「顧客」が消える
■4章 ピクサー・プランニング
ピクサーは「灰色のモヤモヤ」から始める
木も森も見る
■5章 「経験」のパワー
最初から「貯金」がある状態で始める
先行者利益は「ほぼ幻」である
■6章 唯一無二のつもり?
「1年あれば終わる」が7年かかったわけ
先人から「あてになる予測」をもらう
■7章 再現的クリエイティブ
計画段階でこそ「創造的」になれる
「見直す」ほうが早く終わる
■8章 一丸チームですばやくつくる
必要なものを「ただち」に支給する
利害が一致すればおのずと「協力的」になる
■9章 スモールシング戦略
「ブロックのように組み立てられないか」
と考える
巨大だと「完成」するまでお金を生まない
■終章 「見事で凄いもの」を創る勝ち筋