3度目の離婚以来、自分の人生について語らなくなった
『マグノリア』(1999)の頃は、ニコール・キッドマンと結婚して養子を迎え、自らよいお父さんぶりについても語っていました。
「家で仕事をするときは子供たちと一緒にいるようにしている。5時間半くらいの睡眠時間でやっていけるんだ。子供たちに対する責任は軽く見てはならないからね」
なのに、どんな変化が起きたのか想像もできませんが「ニコールは離婚の理由をわかっている」という不思議な言葉とともに、トムは離婚訴訟を起こし2001年に離婚が成立しました。そのあとケイティ・ホームズと2006年に結婚したものの、今度はケイティが2012年に離婚訴訟を起こしてあっという間に離婚が成立。ケイティは娘のスリちゃんを連れてトムの元を去りました。
トムが大勢の取材陣を相手に取材に応じたのは2010年の『ナイト&デイ』が最後です。
メディアは残酷ですから、有名人のスキャンダルには批判的な記事を書き立てます。その結果、スターは目に見えない防波堤を築き、コントールできない外的危害から自分を守ろうとします。トムも当然、いろいろとメディアには傷つけられたと思います。
ケイティとの離婚騒動後、トムは出演作品のPR以外、自分の人生についてはほとんど語らなくなりました。
サービス精神旺盛な人ですから、嫌な顔は絶対見せないし、対応の丁寧さは変わりません。しかし、楽しく終わったインタビューの録音を聞き返すと「あれ?」という感じ。内容スカスカのインタビューなのです。記者たちの質問のテクニックよりも、それをかわすトムのテクニックの方が優れているのです。
トムがあの笑顔で取材部屋に入ってくると、みんな思わず立ち上がって彼を歓迎します。ひとりひとりに「元気?」「どうしてる?」と聞いてくれるのです。
そばにいる人たちを元気にしてくれるトムのエネルギーが部屋に充満し、和気あいあいとインタビューは進み、温かいオーラに包まれて「じゃ、またね」と彼は消えていきます。
記者仲間は、「トムの人を惹きつける魅力は凄いね」と言っていました。そう、たとえインタビューの獲れ高が少なくても、彼の輝くスマイルを前にすると、そんなことはどうでもよくなってしまうのです。
1981年から、新作公開のたびに彼のあの輝くスマイルを真近で拝んできました。60歳になろうとしているトムは、当時と変わらず、観客を興奮のるつぼに巻き込み続けています。
かつて「自分の人生を深く生きれば生きるほど、役柄にその要素がにじみ出る」と言っていましたが、自分について語らなくなっても、『トップガン マーヴェリック』を見ていると、その裏にあるトムが積み重ねてきた人生が感じられます。
もう、賞賛の言葉が見つかりません。拍手喝采を贈るのみなのです。
文/中島由紀子
『トップガン マーヴェリック』(2021)Top Gun:Maverick/上映時間:2時間11分/アメリカ
アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”は、かつてない世界の危機を回避するべく、絶対不可能な極秘ミッションに直面していた。ミッション達成のためチームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら、常識破りな性格で組織から追いやられた“マーヴェリック”(トム・クルーズ)だった……。
©2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
配給:東和ピクチャーズ
公開中
公式サイト:https://topgunmovie.jp/