忘れられない、スター誕生の瞬間

トムの俳優業のスタートは1981年の『エンドレス・ラブ』と『タップス』の脇役。『エンドレス・ラブ』の出演シーンを見たトム自身、「トム、リラックス! リラックスだよ! と笑ってしまった」と、後に語っていました。

難読症の克服、『タップス』での大抜擢、3度の離婚……。大スター、トム・クルーズの知られざる素顔_4
『タップス』左からトム、ティモシー・ハットン、ショーン・ペン
Everett Collection/アフロ 

彼には初めから幸運の女神が微笑んでいました。
『タップス』では、トムが演じるキャラクターは、名前もついていない、その他大勢の陸軍士官候補生Aみたいな役だったのですが、彼には何かがあると感じたハロルド・ベッカー監督が、名前のある役に格上げしました。短い出演時間だし、主演のティモシー・ハットンとショーン・ペンの洗練された役作りに比べると未熟な演技なのですが、すでに光を放っていました。「あれは誰だ?」と観客の注意を引いたのです。あのときのトムが発散していたオーラは、今でもはっきり覚えています。強烈でした。まさに、スター誕生!

『タップス』の取材の席では、『普通の人々』(1980)でアカデミー助演男優賞を受賞し、すでにスターだったティモシー・ハットンへの質問ばかりでした。インタビュアーが新人のトムの名前を間違えてロニーと呼んでしまった際、礼儀正しく「僕の名前はトム、トム・クルーズと申します」と敬語で訂正していたのを思い出します。

インタビュアー:あなたの趣味は?

トム:ランニング、長距離です。それにフットボール、レスリング、高校時代は棒高跳びもやっていました。

インタビュアー:スポーツマンなんですね?

トム:スポーツは大好きです。

トムへの質問は、これだけ。

このときからずっと、ランニングが彼の得意スポーツリストのトップにあるのがおもしろい。約50本の出演作品のうち40本以上で走るシーンがあるそうです。トムのFacebookのページにも“アクター、プロデューサー、1981年から映画の中で走り続けています”というユーモアたっぷりの自己紹介文が載っています。 

難読症の克服、『タップス』での大抜擢、3度の離婚……。大スター、トム・クルーズの知られざる素顔_5
2009年のゴールデングローブ賞授賞式で。トムの後ろに映っているのが、2017年に亡くなった最愛の母、メアリー・リー・サウスさん
©HFPA

彼の人生とキャリアをプッシュする原動力は、スポーツマンとしてのヘルシーな競争心に加え、7歳で診断を受けてから苦しめられてきたディスレクシア=難読症の克服ではないでしょうか。
難読症は今でこそ治療の方法がありますが、以前は学習能力欠陥とさえいわれていました。本を読み聞かせされれば意味が理解できるのに、文字を追うだけでは理解できないというもの。学校の宿題は、トムが口で言ったことをお母さんが書き取り、それをトムが自分の手で書き直すというやり方で乗り切ったそう。

難読症で苦労したことを本人から聞いたことはないのですが、ある教育システムに助けられたと丁寧に説明していたことがあります。それがどれほど難読症の自分を助けてくれたかということや、自身の苦労を生かして子供たちを助けていきたいということを情熱的に話していました。
「引っ越すたびに読めないことがバレるんじゃないかとヒヤヒヤしていた」と、かつて雑誌「ピープル」のインタビューでも語っています。