息が切れて運動が続かないときは
40代を過ぎたあたりからは、多くの人が疲れやすさを実感し、駅などでは階段ではなくエスカレーターやエレベーターについ乗ってしまいたくなるものです。しかし、それは体力が低下したからというより、年齢とともに体を動かす量が減ったせいと考えられます。
体力(持久力)の指標として、「最大酸素摂取量」というものがあります。これは「体重1キログラムあたり、1分間に組織が酸素を取り込む最大の量」のことで、炭水化物や脂肪を酸素によって「燃焼」させてエネルギーを作り出す能力を表します。
最大酸素摂取量は、20代以降はなだらかに低下していきますが、例えば30代で一念発起し、毎日トレーニングをすると向上させることができます。加齢による衰えはあっても、80歳で一般の20代くらいの最大酸素摂取量を維持できるとされています。
人間の体は使い続けることで、高いレベルを維持することができます。つまり、日常の中で体を動かしてさえいれば、若々しさを保つことができるということです。運動習慣のなかった人が、定年後に週に1回、ジムに通ってトレーニングするよりも、毎日30分の散歩のほうが体力の維持にはつながりやすいはずです。
また、放っておけば一定の割合で低下していく最大酸素摂取量に比べて、握力の低下は少ないというデータもあります。日常生活で物を摑んだり握ったりする動作が、歳をとった後も若い頃とあまり変わらないことが知られています。
息切れをして運動が続かないという人も、最初は無理をしないで歩くことから始めれば、そのうち楽に続けられるようになるでしょう。一方、歩くだけで息が切れるという人は、私がそうだったように、心不全などの病気の可能性があるので、循環器内科などを受診して調べてもらう必要があります。心不全の場合、心エコー検査をすればすぐに有無が確かめられます。
痛みがある場合
運動をしようにも、いざ始めると膝や腰、足首などの関節に痛みを感じてしまうという人もいます。骨や筋肉、関節などに痛みがある場合、整形外科を受診するのが一般的ですが、原因が明らかではない慢性痛に関しては、解決しないケースも多いようです。
捻挫や関節炎など、X線検査などで疾患が明らかな場合を除き、慢性痛を取り除くには、整形外科よりもペインクリニックを受診するほうが治療の近道かもしれません。
たとえば、痛みを取るには鎮痛剤より、抗うつ薬が効く場合があります。神経細胞の接合部であるシナプス内でセロトニン濃度を高める働きをするSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などは、人間に備わっている痛みをなるべく脳に伝えないようにする神経システムを活発化させ、慢性痛による刺激に対して鈍感になる効果が期待できるのです。
そのように、痛みに対して様々なアプローチを試してくれるペインクリニックで痛みを取り除いた上でなら、運動を始めやすいかもしれません。少なくとも、痛いのを我慢して「健康のために」運動を続けるのは、本末転倒です。