ミュージカルシーンは放送回の“まとめ”

これまで宮藤官九郎こと、クドカンが脚本を書きあげた作品は、大河ドラマ『いだてん』(2019年)をはじめ、映画、舞台など100作以上に及ぶ。

彼のどの作品にも共通するのが、登場人物と単にコメディだけに収まることのないコンテンツの多さだ。今回紹介している作品もタイムスリップ、恋愛、親子愛、多様性、ハラスメントなど枚挙にいとまがない。コンテンツは放送回を追うごとに増えていく。

出演俳優やスタッフから「台本がとにかく細かい」という話を聞いたことがある。必然的にカット割も多く、物語に張り巡らされる伏線にファンは熱狂する。

そんな彼の作品において『不適切にもほどがある!』のミュージカルシーンは、視聴者に向けた各放送回の“まとめ”なのだ。

例えば視聴者が突然の歌い出しに唖然となった、第一話。ミュージカルテーマはドラマ全編を通して感じられた「多様性の時代」。

ミュージカルスタート前には、こんなシーンが見られた。
令和はあまりにもデリケートすぎてついていくことができない市郎(阿部サダヲ)。酒でも飲もうと入った居酒屋は、市郎が操作できるはずもないタッチパネルでの注文方式で、間違えて200皿近くの炙りしめ鯖を注文してしまう。

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そんな彼の隣席のテーブルでは、社内のハラスメントについて、3人の社員が打ち合わせをしていた。問題は秋津くん(磯村勇斗)の無意識の言動のせいで女性社員が休職をしたこと。「多様性の時代なんだから、後輩社員に気を遣え」と会社員たちが話していると、市郎がおもむろに会話に入り込んだ。

「気持ちわりぃ。なんだよ、寄り添うってムツゴロウかよ。そんなんだから時給も上がんねえし(昭和と大差がないという指摘)、景気悪いんじゃねえの? 挙げ句の果てに(配膳)ロボットに仕事取られてさ。ロボットはミスしても心折れねえもんな」

そして秋津くんの「話し合いましょう〜」で突如始まったミュージカル。「(問題は)拳と拳で解決」と、昭和おじさん節全開で盛り上げる市郎。ラストには休職中の女性社員が「(先輩から仕事に関して)叱ってほしかった」と歌い上げる。

コミュニケーションが減少していることに対する警鐘だ。コンプライアンスを遵守してばかりで、つい“多様性”で片付けようとする傾向、あなたの職場にもないだろうか。