大瀧詠一が初めて細野晴臣の部屋に入った瞬間、思わず発した言葉

約束の時間が来て、玄関から「こんにちは」という声が聞こえると、まもなく中田が顔を覗かせた。そして長髪をマッシュルーム・カット風にした目つきの鋭い男が続いて部屋に入ってきた。

細野はひと目見て、「ビー・ジーズみたいなヤツが入って来た」と思ったという。だが、男は部屋に入るなり、細野には目もくれずステレオに向かって思わず声を上げた。

「おっ、ゲット・トゥゲザー!」

『get together』(VICTOR)のジャケット写真。1967年にヤングブラッズがデビューアルバムでリバイバルヒットさせた曲でもある。はっぴいえんどにも影響を与えた荒々しいギターのカントリー・ロックだ
『get together』(VICTOR)のジャケット写真。1967年にヤングブラッズがデビューアルバムでリバイバルヒットさせた曲でもある。はっぴいえんどにも影響を与えた荒々しいギターのカントリー・ロックだ

その瞬間、細野の目はギラッと光ったに違いない。

まだ日本ではそれほど知られていないアメリカのフォーク・ロック・バンドの「ヤングブラッズ」を知っているかどうか、それは細野にとって相手を知る手掛かりだった。

「おっ、ゲット・トゥゲザー!」という一言で、「この男とは何かをやることになりそうだと」という予感が湧いたという。

男の名前は「大瀧詠一」。4月から早稲田大学文学部に入学するという岩手県出身の18歳。ヤングブラッズのアルバムは持っていたが、日本盤のシングルを見たのは初めてだったのだ。

「大瀧くんは見るからにビー・ジーズなのね。髪型がマッシュルームぽいし、着てるものもちょっとブリティッシュ系っていうかグループサウンズ的な。ビージーズの歌を歌うとそっくりなんですよ。ロビン・ギブって人にね。でも本当は違うんですよね、根っこにあるのはプレスリーだったりね」

ちなみに大瀧はその頃、本当にビー・ジーズのファンクラブの会員だった。”ビー・ジーズみたいなヤツ”という細野の第一印象は、見事に的中していたのである。

それからの1年間。3人はお互いに行き来しながら定期的に会って、熱心に音楽の道を究めていくことになる。