リスキリングは本来「企業が従業員に労働移動を促すもの」
——後藤さんはリスキリングを、個人の「学び直し」や「生涯学習」とは異なるものだと主張されています。改めて、リスキリングの本来の定義を教えてください。
英語のリスキリングの原形は「リスキル」であり、その本来の定義は「企業が従業員に新しいスキルを身に付けさせる」というものです。
海外でリスキリングが注目された背景には、急速に進化したテクノロジーにより、従業員の仕事が奪われていく可能性と、それに対する危機感がありました。そこで、企業が従業員をクビにするのではなく、今後企業として注力するべき分野へ従業員が移動し(「労働移動」という)、活躍してもらうための手法としてリスキリングが注目されたんです。
一方の日本では、リスキリングの和訳として、人生100年時代に向けた生涯教育の意味も含む「学び直し」が当てられてしまったため、本来の定義と異なるかたちで広まってしまいました。
「学び直し」は、必ずしも労働移動につながるスキルを身に付けなくてもよいという点で、「リスキリング」と大きく異なります。
——「リスキリング」と「学び直し」を混同していることの、問題点は何でしょうか。
リスキリングのゴールが、スキルを身に付けるという途中地点に置かれてしまっていることです。前述の通り、本来のゴールは、従業員が企業の成長分野に労働移動すること。しかし、日本におけるリスキリングでは、スキルを身に付けた後にあるべき「実践」と「労働移動」のステップが抜け落ちてしまっています。
そのため、企業や個人がリスキリングに注力しても思うような成果が得られないケースが散見されるのです。