幸いにも襲われた病魔でHIKAGEは深刻な状況には陥らなかった。そして、生還後数年を経た今のHIKAGEは、以前よりずっと健康そうに見える。また、大きな病気をしたことにより、HIKAGEの中では少なからぬ意識の変化があったという。

「死ぬってことが、以前よりはリアリティに近づきました。1988年、『ROCK’N’ ROLL RIDER』という曲(同年10月リリースの同名アルバムに収録)を作ったんだけど、そのとき、俺たちは昔のロックスターみたいに27歳で死ぬ世代ではないって思ったんだよね。もうすぐ30歳になるというのに、『俺、まだ死ぬ感じがしない。これは生き延びるだろうな』って感じたから、じゃあこれからは、“俺たちが生き延びる歌”を作ろうと。

だけどこの年になると、また違うリアリティが出てきます。周りで死んじゃったやつも多いし、自分も来年死ぬかも分かんないなという。逆に、89歳まで生きた俺の両親と同様に、もしかしたら俺もあと25年も生きるのかもしれない。むしろ今はそこが、一番の心配です。今死ねば、やりたいことやって死んだと思えるからいいんだけど、金や生活の維持を考えると、あと25年もどうやって生きりゃいいのかと(笑)」

ザ・スタークラブのHIKAGEが大病を患ってから深く考えるようになった“生きることのリアル”とパンク哲学_2
(撮影/木村琢也)

でも世界のロック界には、80歳にして現役で走り続けている人もいるじゃないですかと言うと、HIKAGEは苦笑しながらこう答えた。

「ミック・ジャガーなんかとは、生きている世界のレベルが違いすぎるんでね。彼らは意欲と健康さえあれば何でもできるだろうけど、我々はそうはいかない。無理が効いた若い頃とは違って、いいライブをやり続けようとキープするためには、時間と金が余分にかかるんですよ。昔よりも人気はないわけだし、どうやって続けていくのかが、常に大きな悩みです」

老いぼれる前にあの世へ行っちまいたい Are you, Baby?
そんなのちっともイカさねえ!
ヨボヨボ・ジジイになっても この世の未来を眺めてニンマリ笑ってやりたい

(『ROCK’N’ ROLL RIDER』 作詞・作曲HIKAGE)