――氏家さんは、2023年2月16日発売の『双蛇に嫁す 濫国後宮華燭抄』(集英社オレンジ文庫刊)にて、2022年ノベル大賞<カズレーザー賞>を受賞されました。最終選考の連絡を受けた時の率直な気持ちはどうでしたか?
最終選考に残ったと連絡をいただいた時は、それは驚いてしまって。夜に連絡をいただいたんですが、あまり現実感がなくて。翌朝起床してからも「自分に都合のいい夢を見たんじゃないかな?」と疑っていました。
それで、電話の着信履歴を確認して、さらに発信元の電話番号を検索して、ようやく「本当だった!」と信じられたぐらいです。最終結果が出るまでは、受賞の可能性を意識しすぎないようにと考えて、あえて日頃ルーチンにしていた執筆活動を止めることはしませんでした。最終選考に残ったことを意識しすぎて書くのをやめて、その結果が落選だったらもう立ち直れないなと思ったので……。
――そこから、受賞の連絡を受けるまではどのように過ごされていたのでしょう。
選考会当日は「きっと大丈夫だ」と「絶対無理だ」という相反する気持ちが頭の中でぐるぐる回ってしまい、緊張して仕事が手につかなかったです。そのうちに「落選したら連絡ってもらえるのかな…」っていう悲観的な気持ちに傾いてきて、勝手に悲しくなってしまって。
「仕方ないから好きなものいっぱい食べよう!」と思って、スーパーへ買い物に出かけたところで受賞の連絡をいただいたんです。その時は正直、最終選考に残った時以上に信じられなかったですね。
――受賞作『双蛇に嫁す』については、カズレーザーさんが選評で激賞されていました。
この度特別賞の選定をさせていただきました。特別賞だなんて随分大仰な響きですが、ズブの素人が自分の趣向だけで選んだものです。
とにかく私が最も面白かった作品に賞を送らせていただきました。
『双蛇に嫁す』
グンバツに面白かったです。全頁が私の好みと噛み合いすぎて、一文一文が私の琴線をかき鳴らしまくりでした。
中国王朝チックをベースにした世界設定がそもそも大好物。火砲という大砲の一種があるので明代あたりがベースなのか、しかし文明度的にはもう少し遡るのか、うまい具合に大陸要素がごった煮にされていたと思います。
登場人物もそれぞれが出自や現状に大きな苦しみを抱えながら、そのやりとりはどこか明るく、ぐいぐいと引き込まれ、あっという間の読了。
考えうる中で最も切なく悲しい結末を選ぶ二人と、その選択をとらせるために丁寧に外堀を埋めていったストーリーも、本当に素敵でした。
本当に読めて良かったです。氏家仮名子さん、おめでとうございます。
2022年ノベル大賞 カズレーザー賞選評
ゲスト審査員 カズレーザー(メイプル超合金)
――受賞した時、選評を読まれた時の率直なお気持ちはいかがでしたか?
カズレーザーさんがゲスト審査員を務めていらっしゃるのは存じ上げていましたが、そのお名前を冠した賞をいただけるとは思っておらず、本当に驚きました。女性読者をターゲットにして書いた『双蛇に嫁す』をカズレーザーさんが気に入ってくださったというのもびっくりで。
選評で「一文一文が私の琴線をかき鳴らしまくりでした」と言っていただけたことは、一番嬉しかったです。他の選考委員の先生方にも、文章力を評価していただいたのですが、自分ではそんな風に思っていなかったのでこれもすごく嬉しくて……。
――ノベル大賞選考委員の選評を読んだ時の感想はいかがでしたか?
これまでプロの作家さんや芸能人の方って、自分とは違う世界に住んでいる人だと思っていましたから、そういった方々が私の書いた作品を読んで「面白い」という選評をいただけるなんて、まるで宇宙人からお手紙をもらった感覚でした。ただし、選評では厳しい指摘もたくさんいただいて、しかも指摘されたことがどれもこれも的を射ていたので、心にグサグサ刺さりました。
プロの先生方が見る目は本当に厳しくて、素人の小手先では全然ごまかせない。選評を読んで「これから自分はものすごく頑張らなくてはならないんだ」と、身が引き締まりました。