日本サッカー代表のカタールW杯出場決定は、この上ない慶事と言える。
敵地でオーストラリアを寄り切って、0-2と勝利した事実は大きい。酒井宏樹、冨安健洋、大迫勇也と3人の主力不在を致命傷にしなかった。吉田麻也、遠藤航は攻守に安定。途中出場の上田綺世はシュート一撃で存在感を発揮し、最後の三笘薫のドリブルは圧巻だった。
ただ、アジア地区最終予選での日本代表の戦いぶりには終始、批判がつきまとった。特に森保一監督は
「一部選手を優遇し、戦力を生かし切れていない」
とやり玉に挙げられ、今や、敵役のようにさえ映る。結果、W杯出場を決めたとはいえ、その低評価を覆したといえるのだろうか。
勝っても「低評価」を覆せない森保監督の憂鬱
7大会連続7度目のW杯出場を決めたサッカー日本代表だが、アジア地区最終予選では終始、批判がつきまとった。特にやり玉に挙げられた森保一監督には、選手たちの「最大値のプレー」を引き出すことが求められている。
屈辱にまみれた「アジアの盟主」

なんとかW杯本大会出場は決めたのだが……
そもそも日本代表は戦力的に、アジアでは一つも二つも抜きん出ている。それは各選手の所属クラブのランクや活躍度を見れば明らかだ。リバプール、アーセナル、サンプドリア、シュツットガルト、フランクフルト、セルティック、PSVアイントホーフェン、ヘンクなど、欧州の有力クラブに多くの選手が所属し、今や「アジアの盟主」といえるだろう。
誤解を恐れずに言えば、これだけの戦力差があれば「負けることの方が問題」だ。実際、ホームで格下ベトナム代表に1-1で引き分けた29日の試合は、結果も内容も目を覆うほどだった。
「声を出すことは禁止です」
この日、試合会場となった埼玉スタジアムでは、興奮したベトナム人サポーターを注意するアナウンスが繰り返し流された。彼らにとって、格上の日本代表と引き分けたこの試合は、歴史的な一戦になったからだ。裏を返せば、日本代表にとっては屈辱的だった。
その最大の戦犯は、森保監督である。
ベトナム戦、主力は吉田麻也のみという先発メンバー構成。これは戦略的にはあまりに雑だった。例えば控えメンバーを半分入れ、チームのベースに馴染ませつつ、コンビネーションを合わせる、という丁寧さはなかった。「やって来い。持ち味を出せ」と送り出すだけで、すぐにかみ合うわけがない。
結果、多くの選手たちがアピールに先走った。互いの距離感は悪く、プレーの精度は必然的に落ちた。コンビネーションが合うはずもなく、そのズレを修正しようとしてスピードが遅くなり、敵のペースにはまった。特に、体格的の劣る相手にゾーンで守り、ファーで叩かれた先制点の失い方などは大失態といえるだろう(後半になってマンマーキングに戻していた)。

3月29日のベトナム戦。日本は前半20分にセットプレーから失点し、国際Aマッチのベトナム戦では約61年ぶりに勝利を逃した
「結果を出せなかったのは選手たち」
そうした批判も聞くが、仕組みを指揮官が準備できなかったら、選手たちはピッチで四苦八苦する。
森保監督は、もはや万能だと感じている4-3-3の布陣を当てはめたが、特に中盤の構成はひどかった。柴崎岳のアンカー起用は明らかなミスで、インサイドハーフは空回り。ボールの回りが悪く、前線は弾切れの大砲になっていた。後半からオーソドックスな4-2-3-1にし、ややマシにはなったが、もっと早く動くべき劣悪さだった。
世界で勝負するには、不安が増した一戦だった。
戦力を「束ねる」ということ
もっとも、日本が選手を戦力として生かし切ることができたら、「世界と伍する」だけの力は持っているのだ。
世界と伍する、とは、W杯で言えばグループリーグを勝ち抜いて、ベスト16、あわよくばベスト8に入る力を指す。フランス、スペイン、ベルギー、イングランド、ブラジル、アルゼンチンなど世界トップ10の「列強」には苦しむだろうが、それ以外の国には勝機が見込めるはずだ。
「俊敏性、技術を併せ持ち、コンビネーションを使って戦える」
それが日本人選手の特徴と言われ、香川真司、内田篤人など欧州で結果を残した選手たちの共通点だった。その流れは、久保建英(マジョルカ)、堂安律(PSV)、三笘薫(ユニオン・サンジロワーズ)、食野亮太郎(エストリル)、三好康児(アントワープ)、中島翔哉(ポルティモネンセ)などに受け継がれている。
過去10年間で日本人の”資源”はさらに豊富になった。冨安(アーセナル)のようにセリエA、プレミアリーグで屈強なアタッカーとパワーでも対決できるディフェンダーが登場した。MF遠藤(シュツットガルト)はブンデスリーガでデュエル勝利数リーグトップの数字を記録。GKも川島永嗣(ストラスブール)だけでなく、シュミット・ダニエル(シントトロイデン)、中村航輔(ポルティモネンセ)などが欧州クラブに所属し、DFの若手では伊藤洋輝(シュツットガルト)なども台頭しつつある。
10年前は考えられなかったが、今や欧州組だけで日本代表が作れる。森保ジャパンの主力には国内組も少なくないが、酒井、大迫、長友佑都はいずれも欧州でのプレーが長い”帰国組”だ。
では、森保監督は戦力を束ね、最大値のプレーを見せられるのか?
それが今後の議論の焦点だ。
「健全な競争」を生み出せるか
最終予選、大きな重圧の中での指揮を執った森保監督には、最大限の敬意が払われるべきだ。とはいえ日本はいきなりオマーンに敗れ、中国に情けない試合で辛勝し、サウジアラビアにも敗れた。
続くオーストラリア戦で4-3-3を採用し、2-1で勝利してようやく流れを変えた。遠藤をアンカーに置くことで特に守備面を強化し、その安定によって、伊東純也を中心にしたカウンターの威力を引き出した。「いい守りがいい攻撃を作る」という戦い方を貫いたことで、なんとか本大会出場につなげたといえるだろう。
だが、その戦いに依存してはならない。
なぜなら、システム自体は劣化し、それは各ポジションの選手のレベルダウンにもつながる。戦力に恵まれているからこそ、チーム内に健全な競争を生み出すべきだ。
敵地でオーストラリアを破った試合も、決してスマートな戦いとは言えなかった。ラインが間延びし、相手にスペースを与えたことで、いたずらにカウンターを食らっていた。押し込まれ、いくつもセットプレーを与え、ファウルで取り消されたオウンゴールはかなり際どかった。もはや格下と言えるオーストリアの攻撃を許したのは、システムの綻びのせいだ。
「ワールドカップ出場という結果を出した」
それは事実である。
しかし、すでにフェーズは次に移った。「アジア」から「世界」へ。チーム内の競争をより活性化させ、真に有力な選手を起用できなければ、2010年W杯の岡田ジャパンのように“耐えに、耐え忍んで”、という以上の戦いぶりは望めない。
西野ジャパンが世界と互角に対峙した2018年のW杯から4年。日本代表が後退することは許されない。
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