2月27日、DDT後楽園ホール大会のセミファイナル。勝者・雪妃真矢は、敗者・赤井沙希に言った。「負けて悔しそうなお顔、最高にお綺麗ですね」――。そこでカメラがアップに映した赤井の顔は、見惚れるほど美しかった。そういうとき、“ちゃんと綺麗”なのが赤井沙希というレスラーなんだよなぁと感心した。
10代からモデルやタレントとして活躍していたが、2011年、テレビドラマ『マッスルガール!』(TBS・MBS系)でヒールレスラーを演じたことをきっかけに、2013年、DDT両国国技館大会にて本格プロレスデビューした。男子プロレス団体・DDTの所属選手の中で、唯一の女子レスラー。一見、お飾りのように見られがちだが、男子レスラーとの壮絶な試合を一目見れば、彼女がDDTという団体の大事なパーツの一つなのだということがわかる。
取材場所に現れた赤井は開口一番、「実はいま、美容の専門学校に通っているんです」と言う。肌の土台がちゃんとしていないと、いくらスキンケアやメイクをしても美しさは宿らない。解剖学や栄養学などを一から学ぶために週3日通学し、試験勉強もしている。年間約80試合以上をこなす彼女にとって、あまりにもハードなスケジュールだ。
「生徒同士で相モデル(互いに施術の練習モデルになり合うこと)をやるんですけど、試合の翌日とかだと胸元が真っ赤に腫れていて。みんな私がレスラーだとは知らないので『赤井さん、どうしたの?』『ちょっと転んじゃって……』みたいな。まさか前日に岡林裕二選手のチョップを受けたとは言えない(笑)。明らかに男性の手形なので、絶対、DVを受けていると思われてます」
以前インタビューをしたとき、彼女はこう言った。「強い女性は美しい」――。ただ見た目を整えることが美しいのではなく、強さの中にこそ本当の美しさがある。闘う女たちを見ていると、そう思えてしかたない。
赤井沙希は紛れもなく強く、美しい。しかし彼女が歩んできた道のりは、“見た目”コンプレックスとの闘いでもあった。
女子プロレスラーはなぜ美しい? 「お人形さんではいられなくなった」赤井沙希が“見た目”コンプレックスから解放された理由
女子プロレスラーは美しい。顔面を殴り合い、髪を引っ張り合い、全身汗まみれになり、化粧は崩れる。それでも彼女たちが放つ極上の美しさに、観客は目を奪われる。その美しさの秘密とは、一体なんなのだろうか。
赤井沙希インタビュー【前編】
“見た目”コンプレックスと闘った日々

DDTプロレスリングで活躍する赤井沙希
メイクはオンとオフを切り替える戦闘服

自身と美との関わりを振り返る
実父は赤井英和。しかし幼少期に両親が離婚し、母、祖母、姉と4人暮らしで育った。
物心ついたときから、美容に興味を持っていた。祇園でクラブのママをやっていた母は、出勤前にばっちりメイクをして出掛ける。そんな母を見て、「メイクはオンとオフを切り替える戦闘服」というイメージがついた。
「家族が全員女子だから、ヘアメイクやファッションの話題は多かったですね。家族で最初にヌーブラに手を出したのはおばあちゃんなんですよ。背中がガッツリ開いた服を着るために(笑)。今年87歳になるんですけど、ピアスも開いてるし、カッコいい女性です」
小学生になると母に連れられて百貨店に行くようになり、1階の化粧品カウンターにいるビューティー・アドバイザーに憧れた。
「身なりをビシッと整えて、綺麗にお化粧して、いい匂いがする女性たち。目の前には絵具みたいにいろんな色のお化粧品があって、その空間がすごく好きでした。中学生のときにビューティー・アドバイザーという職業を知って、わたしも将来なりたいなと思いました」
校則の厳しい女子校で、眉毛を整えるのも禁止されていたが、放課後、こっそり化粧をして街へ繰り出した。M・A・CやBOBBI BROWNといったデパートコスメが好きだったが、小遣いでは買えず、同じく黒いパッケージで統一されていたKATEを愛用した。
中学2年生のとき、街でモデルにスカウトされる。その頃の赤井は身長が高いことをコンプレックスに感じていたが、「仕事にしたらコンプレックスも消えるかもしれない」と思い、モデルとしてデビューすることを決めた。
高校1年生のとき、『VOGUE』に載った冨永愛の写真に衝撃を受けた。自前の制服にルーズソックス。ノーメイクで自信に満ち溢れた表情に魅了された。
「パリコレに行って自分で道を開拓したという話も衝撃的でした。私も当時、ショーのモデルをやっていたんですけど、一人で海外に行っても英語は通じないし、そこで開拓するってすごいなと思ったんです。美しさと生き方は結びついているなと感じました」
「めっちゃブスやんか!」

メイク直しにも余念がない
20代になると、テレビのバラエティー番組にも出演するようになる。身長が高いことをより目立たせるためにポニーテールにし、“おバカ”キャラでいることを徹底した。「こういう自分が求められている」と勝手に感じ、現実とのギャップに悩んだ。
「メイクはとにかく、人間味がなければないほどいいと思っていました。肌はマットで、まつ毛をとにかく長くして、大きいカラコンを入れて。目の粘膜まで真っ黒にするから、鼻をかむと鼻水にアイライナーの黒が混ざっていたり……。お人形さんみたいになりたかったですね」
ガリガリに細くなければダメ。目は大きくないとダメ。流行りの顔や体型から少しでも外れると、「自分はダメだ」と感じていた。
「私は目が離れているし、体も縦には長いけど骨格はしっかりしている。『デニムのこのサイズが入らないからデブだ』みたいに思い込んでいました。流行とか自分の理想に当てはまっていない自分が、ずっとコンプレックスでしたね」
しかしプロレスラーになってから、見た目に対する意識に変化が生じた。
「いつまでもお人形さんではいられなくなったんです。試合中は360°の方向から見られるので、あとから写真を見て『めっちゃブスやんか!』と思ったり。そういう自分を受け入れるしかないなと思うと、もう見慣れましたね。顔のバランスとかパーツの大きさはまったく気にならなくなりました」

「360°の方向から見られるのがプロレスラーという職業」と赤井は言う ©DDTプロレスリング
普段からウォータープルーフのメイクアイテムを多く使っているため、試合で特別なメイクをすることはあまりないが、こだわりはある。
「真っ赤なリップは、いくら流行っていても塗らないようにしています。似合わないというのもあるんですけど、赤い口紅が流れるとお化けみたいになってしまう。あとツヤツヤのグロスは、毛が顔につくから避けてますね。肌は、マットにしてたら顔面を蹴られたときにファンデーションが削れたことがあって(笑)。いまは艶肌を意識しています。仕上げはCLARINSのフィニッシングミスト。これでかなり落ちにくくなるんです」
(後編に続く)
撮影/林ユバ

「MEGA MAX BUMP 2022 in YOKOHAMA」
旗揚げ25周年イヤーのDDTが贈るゴールデンウィークのビッグマッチ、初進出となる横浜武道館で開催!
2022年5月1日(日) 開場12:30 開始14:00 神奈川・横浜武道館
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