怪文書の内容はこうだ。
解散日程や内閣改造について「岸田首相は予算関連法案が仕上がる31日に衆議院を解散して大勝し、選挙後に内閣改造して政敵高市早苗を切るつもりのようだ」と言及。解散は天皇の国事行為として行われるため、「すでに天皇陛下の30日、31日の日程を押さえた」という。
その背景について「岸田首相には、このところの支持率の上げ基調は、好機と映っているようだ」「解散を前倒しした方が野党の準備は整わない」と指摘。「自民党は東京などの空白区を公募で埋めるメドがついたと森山選対委員長が先週報告した時に、岸田首相の目が光ったという」とのエピソードまで紹介した。
そして、最後は「もっと早く気づくべきだった」という意味深なメッセージで筆が置かれている。
「解散じゃありませんよね?」公明・山口代表もけん制した“3月超早期解散”仰天怪文書の中身と岸田首相が企む“本当の解散時期”
「3月31日に衆議院を解散」。3月28日、永田町では驚きの内容の「怪文書」が駆け回っていた。この日、国会では来年度の予算案が参議院で可決され、成立。これまでの論戦では放送法の解釈変更を巡る行政文書について、高市早苗経済安保担当大臣が「捏造だ」と主張し、総務省が「捏造があったとは考えていない」と結論付けた後も「怪文書の類い」と強弁し続けたことが注目されたが、予算審議が終わったとたん、永田町の関心は別の「怪文書」に移った形だ。
解散風が日に日に強まる中で出た“怪文書”その狙いは?

永田町の議員、秘書、記者にまわった怪文書の中身
この怪文書に触発されてか、公明党の山口那津男代表は、予算成立後に岸田首相が挨拶に来た際に、握手を交わしながら「解散じゃありませんね?」と釘を刺し、岸田首相は「あ、いや、統一地方選挙です」と苦笑いをしながら応じる一幕も見られた。
岸田首相は、その後に官邸で報道陣から解散について問われると「今後については間違いなく取り組んでいかなければいけない課題、これは統一地方選挙と衆参の補欠選挙であると思っています。それとあわせて先送りできない課題について取り組む、今はそれしか考えておりません」と答えるにとどめた。
怪文書にあるような、31日解散という目と鼻の先の「超早期解散」はいくらなんでも考えにくいが、それでも永田町での解散風は日に日に強まっている。
解散風が強まると、与党議員に準備を促すように、はたまた野党議員を揺さぶるように、こうした怪文書が永田町で出回ることは往々にしてよくあることだ。
野党は「この流れの中で解散されてしまっては太刀打ちできない」
そもそも、どうして早期解散論が浮上しているのか。
1つは怪文書にもある通り、岸田政権の支持率が回復傾向にあるためだ。
日経新聞とテレビ東京が3月24日から26日にかけて実施した世論調査では、内閣支持率は48%で2月の前回調査から5ポイント上昇。一方で不支持率は44%となり、7カ月ぶりに支持が不支持を上回った。
要因としては韓国の尹錫悦大統領が徴用工問題の解決策を発表して、訪日するなど日韓関係が改善に向かっているほか、岸田首相が3月21日にインドを外遊している途中に電撃でウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談するといった、外交成果が世論に影響を与えたとみられる。

ゼレンスキー大統領と会談した岸田首相(本人フェイスブックより)
日韓首脳会談の後 、5月に開かれるG7広島サミットに尹大統領を招待することを発表し、ウクライナ訪問でもゼレンスキー大統領がサミットにオンラインで参加することを表明した。どちらの会談もG7広島サミットへの布石となっており、これからサミットに向けて国民の関心が高まっていくことを考えると、今の岸田政権の支持率上昇傾向は、今後も続いていく可能性がある。
自民党が去年の参院選で議席を伸ばし勝利してからは、岸田政権は2025年まで国政選挙をやらなくても済む「黄金の3年」を手に入れたため、解散はせずに腰を据えて政策に取り組むのではないかと見られていた。
一方で、岸田首相の自民党総裁任期は来年9月までであり、そのときに岸田政権の支持率が低かった場合は、その後の総選挙に向けて総理総裁の座から引きずり降ろされる可能性もある。
そのため、岸田首相が長期政権を目指すならば、G7広島サミットで自身のレガシーを残し、支持率が上がったタイミングで「黄金の3年」をかなぐり捨てて、早期に解散に打って出るのではないかという観測もずっとささやかれていた。
近ごろは内閣支持率上昇により、後者の想定が永田町で強まっているわけである。
政権と対峙する野党関係者は「外交日程の組み方がうまく、サミットまで一本の筋が通っている感じがある。この流れの中で解散されてしまっては太刀打ちできない」と苦々しく語った。
子ども・子育て予算倍増で国民に信を問う?
G7広島サミットは5月19日から21日に行われる。
その後の解散のタイミングとして考えられるのは、6月21日の通常国会会期末だ。
会期末には野党が政権にノーを突き付ける内閣不信任決議案が提出されるか否かが注目されるが、この決議案は内閣に退陣を迫るものであるため、解散の大義になると解釈をされてきた。
ただ、もし野党から決議案が提出されなかったとしても、岸田政権はもう1つ、解散の布石を既に打っている。
それは6月に発表される「子ども・子育て予算倍増」に向けた大枠の考え方である。
岸田首相は今年6月に示される経済財政運営の指針「骨太の方針」に合わせて財源も含めて倍増の全体像を発表するとしている。
既に岸田政権は防衛費を関連予算と合わせて2027年度までに倍増することを決めており、その際に法人税などの増税カードを切っている中、どのように子ども政策の予算を倍増するのかが注目されているが、ここで発表した内容を「国民に信を問う」と大義にして解散をすることも考えられるだろう。

早期解散を巡っては、自民党の茂木敏充幹事長が3月28日に「解散は総理の専権事項だ。いつそういう判断があってもいいように準備を進める、それが幹事長の役割だと思っている」と報道陣に述べ、29日には立憲民主党の安住淳国対委員長が党会合で「いきなり解散は、やったらよほどの党利党略だ」とけん制。既に言葉の応酬が始まっている。
同日の国会審議で岸田首相は「今、衆院の解散は考えていない」と述べたが、過去には佐藤栄作首相が解散について「頭の片隅にもない」と答えながら解散し、後に嘘をとがめられると「頭の真ん中にあった」と答えたというエピソードもある。
とある国会議員の秘書は「今のような解散風の状況になったら、いつ解散されてもいいように衆院選に向けて準備をしないといけない。統一地方選もあるのに大変だ」と漏らした。
解散風が吹き荒れる中で舞う怪文書。予算審議が終わって統一地方選や法案審議に腰を据えて取り組みたいところだが、年度が変わっても政治は騒々しい状態が続きそうだ。
取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班