【漫画あり】セックスレスは夫以外の相手を見つけても解決はしない。『私の穴がうまらない』で描きたかった満たされない心
夫婦間やパートナーとの間の「セックスレス」がテーマのコミックエッセイ『私の穴がうまらない』。雑誌「レタスクラブ」で連載され話題を呼んだ同作の作者・おぐらなおみさんに、セックスレスを描きたかった理由や、“レス”から切り込む夫婦や家庭の問題について聞いた。(前後編の前編)
セックスレスの問題をどちらかのせいにしたくなかった
――セックスレスをテーマにしたコミックエッセイを描かれようと思ったきっかけは?
以前からこのテーマで描きたいなと思っていたんですけど、編集の方たちと一緒にご飯を食べたときにその話をしたら共感してくれて、「なぜ、今それをやらないんだ」っていう話になって。そういうテーマが取り上げられることはなかったから「ぜひ描いてほしい」と言われて、レタスクラブでの連載が決まりました。

漫画家・おぐらなおみさん
――キャラクター設定や物語の展開は、周りの方やおぐらさん自身の経験を軸に作られたんですか?
特定のモデルはいないんですけど、友達の話も参考にして、複合的に決めていきました。セックスレスになる原因も、それを解決していく方法にもいろいろあると思ったので、群像劇にしようというのは決めていて。「こういう感じでみんなレスになっていくのかもしれないね」というキャラクター設定をして、話を作っていきましたね。
――物語を書く上で気をつけたことや、ここは貫こうと決めたことはあったんですか。
夫婦やパートナーの、どちらかが悪いという描き方はしないように心がけました。これって、戦いじゃないよねっていう。お互い、よりよい人生にしたくて性生活に悩むわけだから、もめてる場合じゃなくて。片方だけに原因があるわけではないとなると、問題解決は簡単ではないですけど、描いていて、そういうものだよな、複雑だなと思いましたね。
――主人公のハルヒのお母さんとの関係性や育った環境も、自分を抑え込んでしまう性格や今の行動に結びついていてリアルでした。そのあたりの奥行きも意識されたのでしょうか。
お話の前半、セックスレスの夫婦がグズグズしてる話が続くんですけど、担当さんに「いつまでこんなことやってるの?」って言われて(笑)。これってふたりの関係性だけが原因じゃないよね、っていう話になったんです。
夫婦になって急に問題が出てきたわけじゃなくて、長年、積み重ねてきた生活とか、性格とか親子関係も問題としてあるのかなと思い始めて。お互いの親のことや、子どものことも描いてみました。

――物語として展開させていくためにもそこが必要だったんですね。
そうですね。私、わりと話を最初に決めてしまうこともあるんですけど、この作品に関しては、描きながら考えていきました。主人公と一緒に悩んで、考えてきたっていう思い入れがありますね。
夫以外の相手を見つけても心は満たされない
――描いているうちに、おぐらさん自身の気持ちや理解が意外な方向に変わっていったところもあったんですか?
ありましたね。途中で、ハルヒが夫以外の人とお付き合いをするっていう展開を入れようと思ったんです。担当さんにもそう話していたんですけど、ある日、ふたりして急に「あれ、やっぱりやめない?」って。「レス解消って、そういうことじゃないないよね」って話になったんですね。
別にその行為がほしいわけじゃなくて、愛する人との、夫婦でしかできないコミュニケーションで満たされたいという話だから、それはやめようって。それには自分でもびっくりしたというか、「あ、答えはこれだったのか」っていう感じがしましたね。

――もともと考えていたお話としては、その別の方とお付き合いすることによって家庭もうまくいく、っていう展開だったんですか?
まさにそういう流れにしたいと思ったんですよね。もうこういうふうになっちゃったら、夫婦としてうまくやっていくのとは別に、それができる相手を見つければいいじゃんっていう発想があって。男の人にとってはそういう場所ってわりと開かれてるのに、女の人にはないよね、とも思っていて。
でももしそうなってしまったら、たぶん家庭は続けられないなって。やっぱり夫と夫婦として愛し合いたいって、自分は考えていたんだなと思いました。
性の話を一番したくないのが夫
――夫の転勤で夫婦が離れて暮らすのをきっかけに、ちょっとずつ状況が変わっていきますよね。
このふたりは一回、離れた方がいいなと思ったので、夫を転勤させることにしました。そこで初めてハルヒは夫の希望を拒否して、夫もそれを受け入れて、じゃあ別々に住んでみようかっていうことになる。そして夫婦ってなんだろう?って本気で考え始める、それを描きたかったんですよね。

――ハルヒは自立した女性のように見えますけど、実は自分を抑え込んで、夫に従っていて。そこで初めて夫婦間で意思を通すという経験ができたわけですよね。
ここは描いていて、「よく言えたね」っていう感じでした。離れて暮らしてそのまま別れてしまう可能性もあったと思うんですけど、そうではなく、やっぱりお互いを大切に思ってるっていうことを自覚できたんですよね。
――性の問題って、どちらかが強くて、片方が従えばいいという問題ではなくて。お互いが自分を大切にした上で寄り添えるんだということが伝わりました。
本当にそうなんですよね。でも、そういう話し合いを一番したくないのが、夫じゃないですか(笑)。性のことを夫婦で話したくないから、それが問題が長引く原因になって。他の人には言えても、夫とふたりで「こういうふうに思ってる」って話しにくいし、そこで拒否されたら、これからどうやって生活していけばいいんだろうって思うから、難しいですよね。ここで絶望したら、もう行き場所がないですから(笑)。

家族になると夫婦としての自分がもう思い出せない
――パートナーに選んだ相手のはずなのに、なぜ一番本音が言えない相手になってしまうんでしょうね(笑)。
そうですよね。家族としての日常生活もある中で、性生活についてあえてふたりで真面目に話し合うって、よほど関係性が良くないと難しくて。ましてやレスのふたりがそういう話をするのは、相当厳しいと思いますよね。
――周りを見ても、セックスレスの夫婦はすごく多いと思うんですが、おぐらさんはこの作品を描いて、こんなにも日本でセックスレスに悩む人が多い理由は、どこにあると感じますか?
やっぱり、単位が家族になっちゃうからかなと思いますね。そうなると、夫婦としての自分が思い出せないぐらいになってしまって。家族として行動していると、夫婦よりも家族が大事になって、夫だけとコミュニケーションを取る時間がほとんどなくなりますよね。

日本には、シッターさんに子どもを任せてふたりでデートみたいな文化もあまりないじゃないですか。そういう意識がベースにあるのかもしれないですね。
――「家族を守るべき」という価値観のほうが強い気がしますね。
そうなんですよね。だから、いざ子どもが修学旅行や友達の家に行って夫婦でふたり残されたら、何を話していいかわからないみたいな瞬間、ありますよね。
――あります。コロナ禍で急にふたりで在宅勤務になって、「どうしよう、気まずい」みたいな(笑)。
いきなり毎日一緒ですからね。しんどいですよね(笑)。
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取材・文/川辺美希 撮影/竹花聖美
『私の穴がうまらない』(KADOKAWA)
おぐらなおみ

2020年2月28日
1155円(税込)
単行本 160ページ
978-4-04-064309-0
『レタスクラブ』連載で話題の”レス”夫婦コミック、待望の単行本化! 心と体にぽっかりとあいた、満たされない「穴」はどうすればいいの? それぞれの”レス”をほろ苦く描く、フィクションコミックエッセイ! フリー編集者のハルヒは、夫・マサルと中学生の娘・アラタの3人暮らし。気づけば夫とは何年も”レス”状態が続いており、虚しさを抱えていた。現代の夫婦の在り方をじわりと問うリアルな展開に読者騒然! レス夫婦の行きつく先は、離婚か、それとも…?
私の穴がうまらない


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私の穴がうまらない(6)





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