「東日本大震災の際、日ごろアウトドアを楽しまれているお客様から、身の回りを照らす明かりやガスバーナーなど、丈夫でコンパクトなアウトドアグッズが役立った、手元にあって安心した、という声を多くいただきました」
と話すのは、「アルペンアウトドアーズフラッグシップストア 柏店(千葉県柏市)」のスタッフ、岡本一大さんだ。
心細くなりがちな非常時には、明かりなどのライフラインが確保されていると心強い。

「もしも」に備えてアウトドアグッズで体験する『ひとり避難訓練』のススメ
天災はいつもふいに襲ってくる。今年3月中旬に関東・東北を襲った地震でも、停電などで不安な夜を過ごした人も多いだろう。自然災害は身近な存在で、「そのとき」に備えるのはもはや常識だ。そんな非常時に頼りになると注目されているのが、防災用品としても使えるアウトドア用グッズだ。筆者のオススメを紹介する。(トップ画像/撮影:杉山元洋)
初心者からのアウトドアVol.1
道具に慣れておくことが大切

▲アルペンアウトドアーズフラッグシップストア 柏店の店内には、屋外での利便性を追求したグッズたちが並ぶ。災害時に活用できる品も多い(撮影:杉山元洋)
「大型台風が襲来する前後には防災意識が高まるせいか、コンパクトで丈夫、日常でも活用できるアウトドア用品を買い求める方が目立って増えます」(岡本さん)
とはいえ使ったことのない道具をぶっつけ本番で使用するのは心配だ。事前にアウトドアに出かけ、その使い方を一度は体験しておきたい。
「アウトドアといっても、一泊する必要はありません。日帰りのデイキャンプでもいいんです。『もしも』のときに備え、楽しみながら使い勝手を体験するといいですよ」(岡本さん)
というわけで、アウトドアグッズを使った“ひとり避難訓練”に挑戦してみることに。
大きな災害が起きると、ガスの供給が一時止まることもある。そのため、非常時に湯を沸かし、加熱調理をするための「ガスバーナー」と呼ばれるガスコンロを用意したい。オススメは、アウトドアのトップブランドであるスノーピークが手掛ける「HOME & CAMPバーナー」のような、CB缶と呼ばれる規格のガス缶を利用するタイプ。
アウトドア用のガスバーナーはOD缶と呼ばれる専用缶を利用することが多いが、手軽に入手することは難しい。しかし家庭用カセットコンロなどに使用されているCB缶なら、コンビニエンスストアなどで手軽に買える。
ガスバーナーのメーカーは純正ガス缶の使用を推奨しているが、カセットコンロとガス缶の規格は、1998年に統一されている。これは、阪神・淡路大震災の際、救援物資で集めたコンロの規格に不一致が起きたことを受けたもの。さらに日本ガス機器検査協会(JIA)による認証制度をパスした「JIA認証」のマーク入りのCB缶なら、基本的には問題なく使用できる。

▲「HOME & CAMPバーナー」で使用する燃料は写真右のCB缶。左のOD缶に比べ低温時の性能はやや劣るが、入手しやすく、汎用性が高いのが特徴。災害時には品薄になるので、こちらもストックしておきたい(撮影:杉山元洋)
「HOME & CAMPバーナー」の大きなメリットは、最大で30センチの大きな鍋を乗せられるフルサイズでありながら、コンパクトに収納できることと、多少の風が吹いても炎が安定するよう設計されている点だ。さすがアウトドアブランドである。

▲「HOME & CAMPバーナー」(1万2100円)。バーナーの内側から炎が出る“内炎式”なので、多少の風が吹いても消えにくいのが頼もしい(撮影:杉山元洋)

▲バーナーをたたんだ状態。最大30センチの大きな鍋にも対応するしっかりとした五徳は、折りたたんで本体内に収納することができる(撮影:杉山元洋)
このバーナー、発売直後の2019年10月に発生した台風19号の際は、多くの店舗で品切れになってしまったという。
「折りたたむと縦置きが可能なので、緊急時にすぐ持ち出しできるようにあえてしまい込まず、“見せる収納”をされているお客様もいらっしゃいます」(岡本さん)
家庭用のカセットコンロより割高だが、コンパクトに収納でき、キャンプに使え、非常時の備えにもなる信頼性は、むしろコストパフォーマンスに優れていると言えるだろう。
「東日本大震災の際は、被災地から遠く離れた場所でも停電になるなど、明かりの大切さに改めて気がついた」と岡本さんが話すように、暗い夜のためにライトを確保しておきたい。
オススメはLEDを採用したヘッドランプ。アウトドアの世界では“ヘッデン”と呼ばれ、頭部に装着し両手が自由に使えるため、必携の個人装備だ。ポケットに入るほどコンパクトで、最近ではUSBで充電するタイプも登場している。
また、赤色LEDが付属していれば、眩しさで周りの人に迷惑をかけることなく手元を照らして、地図程度なら読めるので便利だ。

▲非常時にはモバイルバッテリーを持ち出す筆者は、適度な光量でバッテリーが長持ちするUSB充電タイプのジェントス「CP-01R」(実勢価格:3000円程度)を愛用。周囲に迷惑をかけず手元を照らせる赤色LED機能も搭載(撮影:杉山元洋)
折りたたみ式水筒で水のストック量をアップ
政府は水や食料などを、各家庭で3日から1週間程度過ごせる量を備蓄することを推奨している。ペットボトルの水を箱買いしてストックするのが一般的だが、コンパクトに収納できる水筒を用意しておけば、避難先などで水を汲みに行く際に役に立つ。

▲エバニューの「ウォーターキャリー 2L」(1210円)は、水を入れると自立する、低臭ポリエチレン素材を採用した三層構造の折りたたみ式水筒。口栓とキャップには抗菌加工が施され、雑菌の繁殖を抑えてくれる(撮影:杉山元洋)
カセットコンロだけ持って避難しても、調理道具がないとお湯すら沸かせない。そこで便利なのが「クッカー」と呼ばれる、アウトドア用の鍋類だ。クッカーは大中小と複数を重ねてコンパクトにスタッキング(積み重ね収納)できるモデルが多く、筆者の場合はヤカンと兼用できる900mlの鍋に、汁物用の中型クッカー(570ml)、飲み物用のコップサイズのクッカー(400ml)をスタッキングして用意している。中にはフタをフライパンとして使えるものもあるなど、思わず唸ってしまうようなアイデアグッズが多いのも、アウトドア用クッカーの面白いところだ。

▲筆者の私物のエバニューのチタンクッカー。ヤカン兼用の鍋の中に、汁物用、飲み物用を重ねて収納。900mlサイズのものなら、主菜、汁物、飲み物の湯を一度に沸かすことができる(撮影:杉山元洋)
フリーズドライの食品に飲み物をプラス
災害時の蓄えの定番とも言えるのが、フリーズドライ食品。熱湯はもちろん、水でも調理できるものも多いため、アウトドアでも人気だ。フリーズドライは長期保存しても比較的栄養価が損なわれにくいのが特徴。アルペンの岡本さんによると、「軽くて持ち運びに便利なため、装備を軽量化したい登山愛好家に人気」とのことだが、常温で長期保存ができ、主菜類は水でも調理できるなど、その手軽さは非常時の持ち出し用としても優秀なのだとか。

▲フリーズドライの主食に加え、野菜たっぷりの味噌汁、温かいインスタントのドリンクがあれば、非常時でも充実した食卓を簡単に整えることができる(撮影:杉山元洋)

▲備蓄食材を消費期限前に消費して新しく備蓄し直すローリングストックと合わせて、アイテムの使い方を覚えたい(撮影:杉山元洋)

▲湯の量は、パスタ(150ml)、味噌汁(160ml)、ほうじ茶ラテ(160ml)で、合計で500ml以下と使う水の量が少なくて済むのもフリーズドライ食品の魅力(撮影:杉山元洋)
筆者が非常持ち出しに加えているのが、顆粒を個包装したインスタントのドリンク類。糖分を補給できるココアや、カフェインフリーで夜飲んでも寝付きに影響しにくいほうじ茶など、温かくて甘いものは、疲れた心と体をいやし、避難生活のストレスを軽くしてくれるはず。
とりあえずの避難生活は、上記のアウトドアグッズを揃えておけばひとまずは大丈夫だろう。それらに加えて筆者がオススメしたいのが、キャンプ用の小さな折りたたみ式テーブルだ。たった10センチほどの高さだが、テーブルがあるだけで不思議とそこが“食卓”になる。
ピクニックやトレッキングでなら地べたでの食事も楽しいが、これが避難生活の身なら気持ち的にもこたえるだろう。避難時に“食卓”があるとないのとではQOL(Quality of Life=生活の質)がまるで違ってくるはず。ソロ(一人)キャンプ用としてA4サイズのアルミ天板のものが人気で、軽量でコンパクトに折りたためる。

▲A4コピー用紙とほぼ同じサイズ。小さいテーブルがあれば“食卓”になる。写真のものは実勢価格2000円ほどのキャプテンスタッグ「アルミ ロールテーブル〈コンパクト〉」(撮影:杉山元洋)

▲収納は折りたたんでコンパクトに(撮影:杉山元洋)
“衣・食・住”の全てを屋外に持ち出すアウトドア向けグッズを災害用備蓄品に加えれば、長期戦も考えられる避難生活でも心強い。緊急事態でライフラインに不都合が起きても落ち着いて使いこなせるよう、「ひとり避難訓練」をこの春ぜひ体験してほしい。
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