「大きかったらおもろいやん」で製品化

約6000もの工場が立ち並ぶ「ものづくりの都」、大阪府東大阪市にユニークな家電を生み出している会社がある。

この会社ではこれまでに100種類以上の商品を販売していて、中にはカップ焼きそば「ペヤング」専用のホットプレートである「焼きペヤングメーカー」や、直径10センチのたこ焼きをつくる「ギガたこ焼き器」といった、くすりと笑ってしまうようなものも数多くある。

「ギガたこ焼き器は、『大きかったらおもろいやん』というだけの理由で商品にしました」

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直径約10センチのたこ焼きが作れる「ギガたこ焼き器」。焼くのに約20分かかるので、その間に普通サイズのたこ焼きを楽しめるよう細かい配慮が。現在までに2万8000台を売り上げた(写真提供:ライソン)

こうあっけらかんと語るのは、製造元であるライソン株式会社の山俊介社長(40)。基本的には、面白くて、開発コストなどが見合うものであれば大抵の企画は通るという。その上で、決して万人受けしないこともポイントに挙げる。

「うちの商品は、他社にはない非日常感のものばかり。マーケティングをして、たくさんの人がほしがる商品をつくるのではなく、100人に1人、めちゃくちゃ突き刺さればいいんやという思いで作っています」

このいわば「いてまえ精神」、「一点突破主義」こそが同社のビジネス戦略なのだ。

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ライソンの山俊介社長(写真提供:ライソン)

そうした姿勢が消費者にも好感を持たれている。例えば、「せんべろメーカー」は、焼き鳥やおでん、惣菜などを目の前で調理しながら晩酌できるという商品。実は山社長自身がほしいと思って企画・開発したものだが、コロナ禍での巣ごもり消費の影響などで、年間1万台も売れた。

焼きいもの論文を読み漁る

一見、ふざけた会社のように思えるかもしれないが、商品開発に対する熱意はいたって真剣だ。

例えば、2021年9月に一般販売した「超蜜やきいもトースター」。これは企画から2年かけてつくり上げた、きちんと理論に裏付けされた商品である。このために、山社長は焼き加減だけでなく、焼きいもそのものの研究までした。

「ネットで焼きいもの歴史を調べたり、焼きいもの論文をたくさん読んだりしました。焼きいもはどういう原理で甘くなるのかご存知ですか。焼きいものデンプンが70度くらいで糊化というのり状になって、その後に糖化という麦芽糖に変わる化学反応が起きるからなんです。それを知ったうえで、甘さを出すためには焼いた方がいいのか、蒸した方がいいのかも検討しましたし、調理法の論文もたくさん読んで、再現していく作業を繰り返しました」

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「超蜜やきいもトースター」(写真提供:ライソン)

当然、いろいろなさつまいもを焼いては試した。その数は2000本以上になるという。結果、熟成された「紅はるか」が最適な甘さを引き出せることがわかった。

苦労して開発した甲斐があり、顧客からの評判は上々。「想像していたものの10倍おいしかったと感動していただいたりしました。製品に対する苦情は言われてないですね」と山社長は胸を張る。

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超蜜やきいもを作るには、熟成された「紅はるか」が必要だという(写真提供:ライソン)

ファンからの要望も商品化

製品化のアイデアが寄せられるのは社内だけではない。ときには「ライソンファン」のお客からも「こんなん作って」と企画が持ち込まれることがある。そのひとつが、家庭用コーヒー豆焙煎機「ホームロースター RT-01」だ。

同社では元々「ポップコーンメーカー」を販売していた。これを大阪市内で喫茶店を営む男性店主が改良して、コーヒーを焙煎していたのだ。そしてあるとき、「これを商品にしてよ」とアイデアを同社に持ち込んだ。

「家庭でコーヒー豆を焙煎する意味が全然わからなかったし、売れるとは思ってなかった」と山社長は苦笑するが、クラウドファンディングで商品の開発資金を集めた結果、5400万円を超える支援があった。山社長はもちろんのこと、社内の誰もが想像していなかったことが起きたのだった。

ただし、この開発・製造も苦労を伴った。同社は自社工場を持たず、中国の工場にアウトソーシングしている。いわゆるファブレスメーカーだが、検疫の関係でコーヒーの生豆を中国に持ち込めないため、同じ開発環境でテストができなかったのだ。また、中国の人たちはハンドドリップしてコーヒーを飲む習慣がなく、イメージを伝えるのが難しかったという。そんな紆余曲折と苦労の甲斐もあり、ホームロースター RT-01は目出たく製品となり、1万台を売り上げるヒット商品になった。

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お客の要望から開発された「ホームロースターRT-01」(写真提供:ライソン)

ホームロースターは成果に結び付いたから良かったが、同社の歴史においては、苦労したのに報われなかった商品もあるのではないか。これについて山社長は「苦労して失敗した商品はあまりないですね。苦労したらある程度、結果は残ります」と断言する。逆に、適当にやって失敗したものはいくつもあるそうだ。

ホットサンドメーカーで生活の質が高まる

ライソンはあくまでも一般消費者に手が届く、みんなで楽しんで使ってもらえる商品づくりを心がけている。これは会社のルーツにも関係する。

ライソンはもともとゲームセンターの景品や単価の安い玩具などを製造・販売する会社のグループ企業としてスタートして、現在の家電メーカーに成長した。

「(そういう出自)なので当社もユニークで低価格、単機能の家電を得意とする会社になったわけです」

最後に、この春から新生活を始める大学生や社会人にお勧めしたい商品を聞いてみた。山社長が一押しするのは「着脱式シングルホットサンドメーカー」(実勢価格2600円前後)。約3分でホットサンドが焼き上がり、お手入れも簡単なこの商品によって生活の質が向上する、と自信を見せる。

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「着脱式ラーメンメーカーどんぶり」(写真提供:ライソン)

もう一つは、「着脱式ラーメンメーカーどんぶり」。インスタントラーメンの調理から食事までをこのどんぶりで完結できる便利な一品で、値段も2500円前後と手ごろだ。

加えて、58秒でトーストが焼ける「秒速トースター」も勧めたいというが(「秒速」と名付けたいがために、1分から2秒切るために必死になったそうだ)、1万4000円前後と値が張るため、「新入社員にはまだ手が出ないかな」と山社長は微笑みながら首を傾げる。

これからも面白いアイデアで消費者をあっと驚かせ、ついつい食指が動いてしまう商品が登場するのを楽しみにしたい。