2017年に隻眼のフレンチブルドッグ・ピートくん、2021年9月には傷だらけのフレンチブルドッグ・ロッコくんを家族に迎え入れた、つの丸さん。(インタビュー前編参照)。
さらに同年12月には、推定3歳のメスのフレンチブルドッグ・フー子ちゃんが一時預かり(里親が見つかるまでの間、自宅で一定期間、保護犬を預かるボランティア)として、つの丸家にやって来た。
――すでにご自宅には2匹の保護犬がいて、さらに3匹目を一時預かりしたわけですね。
一時預かりとはいえ、さすがに3匹目はいけるかなっていう不安はありました。でも、新規の保護犬がひっきりなしに保護団体に入ってくる現状ですから、なんとか頑張ってみるかって感じで引き受けました。
――そのフー子ちゃんは、右前脚に障がいを抱えていたんですね。
フー子もブリーダーの放棄で団体に引き取られたんですが、事前情報で片脚が使えないっていうのはわかっていました。かわいそうなことに、おそらく骨折した状態でそのまま放置されて、曲がったままの状態で骨がくっついてしまったんだろうって。それで右前脚がまったく使えなかったんです。
――散歩はできたんですか?
右前脚が使えないばかりか、他の3本もそんなに強くなかったんで、最初は全然、走ったりできなかったですね。でも、1ヵ月くらい預かっているうちに、体がたくましくなって、いつしか普通に走り回るようになったんです。むしろ散歩では一番大暴れしてました(笑)。

「ノーベル平和賞は犬がもらうべき」漫画家・つの丸さんに聞く“保護犬迎え入れのススメ”
『みどりのマキバオー』や『モンモンモン』などの作者で、動物漫画の第一人者でもあるつの丸さん。これまでに2匹の保護犬を家族に迎えいれたほか、さらに2匹の保護犬の一時預かりもしている。そんなつの丸さんから、今後、保護犬を迎え入れたいと考えている人へのメッセージとは?
右前脚が不自由なフレンチブルドッグ、フー子ちゃん

現在は新たな里親のもとで幸せに生活してるフー子
ハンデのある犬を率先して受け入れる理由
――さらにフー子ちゃんは、まだ推定3歳と若いのに出産した痕跡があったとか。
そうなんです。おっぱいがビロビロで、こうなるには多分、出産は1回だけじゃないだろうって聞きました。だからフー子にはいつも、服を着せていました。悪質なブリーダーはたくさん子どもを産ませたいんで、早くから産ませるし、すぐ取り上げちゃうし。
――胸が締めつけられる思いです。
ただ、ロッコとフー子はこれまで、人間にかなりひどい目に遭わされてきたはずなんですけど、決して人間ぎらいの感じがなくて、そこはすごいなって思うんですよ。人間を恨んでいる様子がまったくなかったですから。
――つの丸さんは、片目だったり、体が傷だらけだったり、足に障がいがあったりと、ハンデのある犬を率先して受け入れているように見えますが、それはなぜですか。
保護犬はみんな何かしらのハンデがあることが多いのですが、これまで恵まれてこなかった子や、より大変な思いをしてきた子を幸せにすることに、やりがいを感じるんです。
さっきも言ったように、「よし、俺が幸せにしてやる!」の精神です。逆に、比較的幸せそうな子は、他の誰かにお任せすればいいかなって。
――そのフー子ちゃんは先月、新しい里親さんのところへ引き取られていきましたね。
寂しくないといったらウソになりますけど、里親さんのもとで誰よりも幸せになってほしいなって。娘が嫁いでいくときのお父さんと同じような気持ちですね(笑)
保護犬の迎え入れを考えている方に伝えたいこと
――つの丸さんはこれまでにペットショップの犬と保護犬、その両方と生活されてきていますが、なにか違いを感じることはありますか?
うちに来てからのスタートで言えば、何も変わらないですよ。さっきも言いましたけど、僕が見てきた範囲では、どんなにひどい目にあってきた保護犬でも、人間を嫌っていたり、怖がっていたりといった感じはまったくなかったです。これは声を大にして言いたいですね。

――成長してから家に来た保護犬にトイレを覚えさせたり、しつけをするのは難しくないんですか?
これはペットショップの子も保護犬もまったく変わらないです。うちは最初にペットショップからドンを迎え入れたんですけど、むしろトイレを覚えるのはドンが一番大変でした。それに比べたら、ピートやロッコ、フー子のほうが覚えはよかったですよ。
――それは意外でした。
これはペットショップの犬だから、保護犬だからということではなくて、多頭飼いだと先住犬がお手本になるんですよ。「なるほど、あれをするとおやつがもらえるのか」っていうのがわかるので、それでトイレを覚えるのが早いというのもあると思います。
――今後、保護犬を迎え入れたいと思っている人に何かアドバイスはありますか。
よく「フレンチブルドッグって飼いやすいですか?」って聞かれるんですけど、これは非常に答えづらい質問で。だってどんな犬種でも、それがペットショップの犬だろうと、保護犬だろうと、急に病気になる可能性はあるし、ケガだってするかもしれない。ゆくゆくは老犬になるわけで、面倒も見なくちゃいけない。
だから「とりあえず生き物を飼うのは大変なんだよ」っていうのは前提としてあります。でも、保護犬だからといって身構えることはひとつもないです。
保護犬を迎え入れようとしている人は、知識だったり覚悟がある場合が多いので、そこまで心配はないと思うんです。コロナ禍でペットブームがありましたけど、そういうブームに乗って、かわいいっていうだけでぱっと飛びついちゃう人のほうが怖いですね。
――ペット大国のフランスでは、2024年からペットショップでの犬や猫の販売が法律で禁止されますね。
世界的にも徐々にそうなりつつあるとは思います。そういう働きかけをしている人は、日本にも増えてきていますし。例えば、ペットの陳列販売をやめて、保護犬や保護猫の譲渡会を始めたホームセンターもあるんです。日本でも少しずつ意識が変わってきているんだなって思います。

「殺処分されちゃうなんてもってのほか。僕はすべての保護犬たちが、人間にもっと大事にされて、幸せに生きてほしいんです」と語るつの丸さん
SNSで保護犬活動を積極的に発信
――つの丸さんは日頃から、保護犬のことを熱心にSNSで発信されていますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
世間の方が思うほど保護犬を飼うのは難しくないですし、保護犬もめちゃくちゃかわいいよってことを、多くの人に知ってもらいたいからです。それがきっかけになって「うちでも保護犬を迎え入れようかな」と思ってくれる人がいたら、嬉しいですね。
――そもそもですが、保護犬の活動に熱心なのはどうしてですか?
単純に犬が好きだからです。それと、犬に恩返しをしたいという思いはありますね。だって、犬ってえらいじゃないですか。家では精神的に癒やしてくれるし、外では盲導犬、警察犬、山岳犬……、ほかにも人間はたくさんの犬に助けられています。人類として、もうちょっと犬に恩返しをしなきゃ。個人的には、ノーベル平和賞は犬がもらうべきだって、ずっと思ってますもん(笑)
――犬にノーベル平和賞ですか(笑)
犬を飼ったことがある方ならわかると思うんですけど、例えば夫婦げんかをしたときに、間に入って止めにきたりするんですよ。それ以前に、犬がいるだけでけんかを未然に防いでくれているケースも多いと思いますし。人間は犬にもっと感謝していいし、犬はもっと幸せになるべきです。
殺処分されちゃうなんてもってのほかですよ。僕はすべての保護犬たちが、人間にもっと大事にされて、健やかに、幸せに生きていってくれたら、それ以上に願うことはないですね。

フレンチブルドッグやパグなどの短頭種が好きだというつの丸さん。左からピート、フー子、ロッコ
撮影/MIKA POSA
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