免疫とはざっくり言うと体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃する防御システムのことですが、免疫力という言葉は医学用語にはありません。
免疫力については、血液や尿検査などの結果で数値化されていないのです。なので、医者同士で「あの患者さんは免疫力3だから、入院だ」「免疫力が100に上がった」などのやりとりはもちろんしません。医学生時代の教科書にも免疫力と書かれた記述はありませんでした。
ただ、「免疫力を上げる食事」「免疫力を高める生活習慣」などの情報は本当によく目にします。免疫力という言葉は医学用語にはないのに、これほど一般的に浸透しているのは皆さんの実体験によってわかりやすく解釈されているからだと思います。
例えば、仕事や学校で忙しくて睡眠不足に陥って体調が悪くなった時や、部活動などハードな練習の後に風邪を引いてしまった場合、「免疫力が落ち気味」「免疫力が弱った」などと使われることがあると思います。
皆さんが実感しているように人間の体は、睡眠不足、ハードなトレーニング、人間関係のもめごとなど、さまざまなストレス負荷がかかることで、風邪を引きやすくなるという事実があります。
風邪を引きやすいということはウイルスに罹患しやすいということで、これを皆さんは「免疫力の低下」と捉えているようです。
医者の立場では医学用語ではない「免疫力」という言葉を使うのは躊躇しますが、今回は、風邪を引きやすい状況→ウイルスに罹患しやすいことを仮に「免疫力の低下」として、さまざまな免疫力の都市伝説について解説していきたいと思います。
「体温が上がると風邪を引かない」はウソ? 免疫力の都市伝説7選
コロナ禍において健康管理にさらに注目が集まり、「自分の免疫力を上げよう!」という言葉をよく目にするようになった。巷で言われている「体温が上がると免疫力がアップ!」「乳酸菌を摂ると免疫力が上がる」などさまざまな免疫力の都市伝説について、Preventive Room株式会社、ウチカラクリニック代表・内科医、産業医の森勇磨医師に解説いただいた。
免疫力という言葉は医療用語にはない

さまざまなストレス負荷で風邪を引きやすい状態に陥る
都市伝説を解説! 体温アップ、筋トレは免疫力アップに繋がるのか?
都市伝説1 体温を上げると免疫力が上がる?
→× 体温は外的アプローチでは上がらないし、免疫力とは関係ない
体温を上げることと風邪の引きにくさに関係があるという論文は出ていません。なので、免疫力をアップするために、熱いお風呂に入るなど無理やり体温を上げる必要はありません。
お風呂に入ったり、生姜湯を飲んだりして一瞬、体温が上がったとしてもその状態をキープすることはできないのです。
また、さまざまなサイトの情報で体温が1度上がると免疫力が●%上がるというのを目にしたことがありますが、前述したとおり免疫力は数値で測ることはできませんし、医学的にはあり得ない表現なので惑わされないようにしてください。
都市伝説2 筋トレをすると免疫力が上がる
→△ 適度な運動は風邪を引きづらい体作りに効果的
筋トレに限らず適度な運動であれば、免疫機能を向上させるというデータがあります。風邪のウイルスは口から入ることが多いのですが、口の中の粘膜にはウイルスが入ってきた時に身を守る免疫グロブリンというガードマンのような存在がいます。
この口の中の粘膜にいる免疫グロブリンをSIgAと呼んでいて、筋トレなどの運動をするとSIgAが高まると言われています。
適度な運動は風邪を引きづらい体作りに効果的です。
しかし、筋トレを何時間も行ったり、体をずっと動かし続けていたりすると逆に体の免疫機能が落ちてしまう可能性があります。
ある実験で、激しい自転車運動を1時間してもらうと唾液中のSIgAが30%ほど低下し、完全に回復するまで1日もかかったというデータがあります。
この実験でも分かるように、あまりに激しすぎる運動は免疫機能を落としてしまう可能性すらあります。あくまでもやりすぎに注意して、適度な運動を心掛けましょう。

適度な筋トレは免疫機能を高める
食べ物についての免疫力の都市伝説を解説
次は「●●を食べると免疫力が高くなる」「●●成分は免疫をアップさせる」という食べ物についての都市伝説について検証していきましょう。
都市伝説3 乳酸菌を摂取すると免疫力が上がる
→× 乳酸菌には整腸作用があるが、風邪を引きにくくなるわけではない
乳酸菌とは発酵によって糖類から乳酸を作り出す性質を持つ微生物のことを指します。腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整えます。
ヨーグルトやチーズ、漬物など乳酸菌を含む食品ですが、これを摂取したからといって風邪が引きにくくなるというエビデンスはないので、免疫力が上がるとはいえません。
ただし、乳酸菌に副作用があまりないので、腸の調子を整える、便通の改善のために摂取するという試みは問題ありません。

ヨーグルトを食べても風邪をひきにくくなるわけではない
都市伝説4 納豆を食べると免疫力が上がる
→× 健康効果は期待できるが、免疫力は上がらない
納豆も乳酸菌同様に、風邪が引きにくくなるというエビデンスはないので、免疫力が上がるわけではありません。
ただ、納豆は日本が誇る発酵食で良質なたんぱく質と鉄分、食物繊維が豊富に含まれています。腸内環境を整えたり、死亡リスクの低下が示唆されていたりと健康効果は期待できるので、食事に取り入れるのはおすすめです。
都市伝説5 緑茶を飲むと免疫力が上がる
→× コレステロールを下げる効果はあるが、免疫力とは関連はない
緑茶は、抗酸化作用があるといわれているポリフェノールの一種である「カテキン」を多く含んでいて、悪玉コレステロールのLDLコレステロールを下げる効果があるという研究データがあります。ですが、緑茶を飲むと風邪を引かないというエビデンスはないので、免疫力とは関連付けられません。
環境、睡眠などの生活習慣についての免疫力の都市伝説を検証
都市伝説6 睡眠時間を長く取れば免疫力が上がる
→× 長く取っても免疫力は変わらない
風邪を引きにくくするための体作りとして、睡眠時間をしっかり取ることは大切ですが、10時間寝たから、健康にいいというわけではありません。ライフスタイルによりますが、平均6〜7時間取れれば十分です。むしろ昼過ぎまで寝てしまうようなサイクルだと生活リズムが崩れてしまい、逆に健康リスクが高まる場合があります。

寝すぎて、生活リズムを乱さないように
都市伝説7 清潔な環境で過ごしていると免疫力は低下する
→× 手洗い、うがいをきちんとすることが健康生活を維持する
清潔な環境で過ごしていると、細菌・ウイルスに対する抵抗力がなくなるのでは?と心配される方は多いかもしれませんが、コロナ禍のこの2年の間、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底したことで、感染症の予防に効果がありました。不潔な環境より清潔な環境のほうが健康維持はしやすいですし、免疫力が低下するということはありません。
免疫力に関しては気にしすぎない やりすぎないがポイント
他にもさまざまな免疫力について都市伝説はありますが、今のところ免疫力を上げる食材や免疫力を上げるための特別な方法はありません。
免疫力に関しては気にしすぎない、やりすぎないことが大事です。免疫力を上げる確かなデータがないのにこれを食べなきゃいけない、この食材は切らしてはいけないなど、不確かな情報のために右往左往しなくてもいいと思います。
食事に関しては、野菜、たんぱく質をしっかり摂取しバランスの良い食事を心掛けましょう。
いわゆる免疫力が低下する ≑ 風邪を引きやすい状態というのは、例えば働きすぎてストレスが溜まる、トレーニングしすぎて体に負荷がかかりすぎている、仕事や勉強、ゲームのしすぎで睡眠時間が少ないなど過剰な行動をとった時です。
ストレスを溜めない、適度な運動をする、睡眠時間をしっかり取るように心掛けていれば免疫力が下がるということはありません。
免疫力の都市伝説に惑わされず、ありきたりですが、規則正しい生活、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を取ることがやはり一番大切です。
取材・構成/百田なつき
40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」(ダイヤモンド社)
森 勇磨

2021年9月29日
1,650円(税込)
単行本:328ページ
4478113459
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