2022年4月1日、ついに「うまい棒」が値上げされた。42年間、10円ワンコインで買えた人気者は、2円高くなり12円。だが、この値上がりに文句など言えるはずもない。
「うまい棒」12円に値上げも、“まだ10円で頑張ってる駄菓子”ベスト5
1979年の誕生以来、一貫して10円で売られてきた「うまい棒」がこの4月から12円に値上げされた。原材料、運送費などの高騰が原因とされるが、その一方、まだ10円で“頑張ってる”駄菓子もある。駄菓子屋で育ったイラストレーター・柴山ヒデアキ氏がレポートする。
実家が駄菓子屋だった駄絵描きによる駄菓子セレクション
「12円」「15円」コーナーも

大手メーカーの商品がこまめに値上げされ、また、減量による実質値上げをしたり、ごまかすようなパッケージで小細工したりするのを尻目に、「うまい棒」にはこれまでよく頑張ってくれたと感謝したいし、これからも応援していく所存である。
静岡出身の私の実家は、駄菓子屋だった。住居の引き戸を開けると店が広がる間取りは、今思えば普通の家とはかなり違うが、当時は何の疑問も抱かなかった。遠足の前日などは、近所の子ども、友達が入れ代わり立ち代わりおやつを買いに来た。
300円などと決められた予算内でいかに満足感の高いセレクションにするか。10円刻みに設定された価格の駄菓子を組み合わせ、予算ギリギリに収めることに頭を使ったものだ。
そこではっと思った。今、10円で駄菓子って買えるのだろうか?
子どもの頃「10円あったらチロルチョコ」というCM曲が流れていたが、今はそのチロルチョコすら値段にバラつきがあり、1個20円くらいが一般的だ。それを調べるべく、駄菓子屋に直接行って確かめてみようと思った。
上京して20年以上経つが、いつの間にか駄菓子はコンビニやスーパーでも売られるようになり、「駄菓子屋」と看板を掲げる店は少なくなった。そんな中、自宅から徒歩5分の場所にたまたま一軒見つけたのだ。古くから続く店ではなく、駄菓子をコンセプトとしたちょっとおしゃれな作りの店だ。
しかし雰囲気は昔の駄菓子屋そのもので、価格はどんなに高くても100円以下。そのなかでも10円以下というものは結構限定されていて、「10円」と書かれたポップ値札の立った一箇所にまとめられていた。
近くに12円とか15円とか、微妙にオーバーする値札の商品も陳列されている。「うまい棒」もここに区分されるのかと思いきや、やはりそこは別格。専用のコーナーにずらっと一通りの味を並べてあった。
さて、この店で10円という値札のものを片っ端から買ってみた。以下、超個人的好みと感覚で、ベスト5駄菓子を紹介していきたい。
5位『花串カステラ』 鈴木製菓有限会社

実家でも売っていた駄菓子の一つ。素直に懐かしく、即座に手にとった。とりわけ、男子より女子に人気があった記憶がある。カステラとかケーキとかいう言葉は、いつの時代も少女の心をつかんで離さない。"花"という、どこにも根拠がない接頭詞も、女子への露骨なマーケティングのように感じる。
味のほうだが、本体はもちろん、周囲にまぶされた砂糖との相乗効果でむちゃくちゃ甘い。この、ぐうの音も出ないくらいの甘さこそが駄菓子の醍醐味だろう。

ところでこの製品、当時実家では大箱に裸のまま詰められて売られており、それを子どもたちが自由に取り出してレジに持っていくシステムだった。今ではちょっとありえなさそうだ。
取材した駄菓子屋の店主も同じ年代だったので、この話をしてみたところ、今は食品衛生などのルール上、基本的には裸で売ることはできないらしい。個別包装の製品が多いのはそんな理由もあるのだろう。
ただ、昔から続いているような古い駄菓子屋はその限りでなく、今も個別包装なしの形で売っている店もあるのだとか。
4位『忍者スクラッチ(ほか)』 ジャック製菓株式会社

今回訪問した店の10円ゾーンの中で最も多かったのが、このジャック製菓の一連のシリーズ。パッケージによって中がチョコだったりラムネだったり仁丹だったりするが、すべてにスクラッチ式の当たりくじや豆知識カードなど何かしらのおまけがついており、子どものワクワク感を引き出してくれる。

パッケージの作りが素人くさい点も10円駄菓子としての雰囲気十分。パッと見のルックスやサイズは似ていても、蓋の素材や印刷方法が均一ではなく、中身もおまけフィーチャーの絵柄もそれぞればらつきがある。
3位『10円玉チョコ』 株式会社丹生堂本舗
チョコという名のチョコもどきあふれる駄菓子の中でも、成分的には準チョコレートに分類され、10円で食べられるチョコとしてはなかなかのクオリティ。思えばあの頃、森永や明治の板チョコを1枚まるごと食べられる機会はそんなになかった。

それに、今でこそバレンタインの日に自前チョコを買うことなんかも平気だが、当時は男の子がチョコレートをかじるのはなんとなく気恥ずかしかった。でもチョコはもちろん好きだし、食べたい。だからこんなに安く、ささやかにチョコを楽しめる製品はとてもありがたいものだった。
パッケージもラウンディングや蓋フィルムの処理が丁寧で、10円駄菓子の中ではかなり上品である。なお、デザインで体現している通り、この製品のくじは"当たるともう1個"ではなく"現金がもらえる"というとっても実用的なシステムであり、最高額は50円らしい。もっとも、それを当てたという人に会ったことはない。

2位『ミニモンスター』 株式会社やおきん
「うまい棒」のやおきんがリリースしている商品。パッケージに"おいしい!"、"たのしい!"、"かわいい!"、"グミだよ!"など、これでもかと詳細な説明が記され、10円で大切な買い物をする子どもに失敗させないよう配慮がなされている。

砂糖がまぶされた4種のグミ(っぽい)棒を並べて一枚の細長い板のように成形し、「うまい棒」とは対照に各味ごとにシリーズ展開するのではなく、あえて1つに融合させて"フルーツ味"と銘打っている。
そのため、口の中で甘かったり酸っぱかったりいろいろな味が交錯し、何のフルーツかよくわからない漠然とした甘い香りと味を楽しめる。4色それぞれの未知のモンスター=味と戯れる楽しみを、たった10円で提供してくれるのは、さすが駄菓子のパイオニアやおきんといったところか。

1位 『フィリックスガム』 丸川製菓株式会社
堂々の第1位は我々の世代から今の子どもまで、誰もが目にしたことがあると思われる有名商品。10円あったらとりあえず思い出すのはチロルチョコかフィリックスガムだったはずだ。

中央がくぼんだ成形で、これを2つに割って半分ずつ大切に食べたものだった。10円駄菓子は、アメかガムの比率が非常に高く、最後の10円でどれを買うか迷う中には、必ずフィリックスがいた。
数十年ぶりにこのガムでフーセンを作ってみたところ、半分だとフーセンをふくらませるには量が足りないので、1個まるごと咀嚼する必要があった。おとなになって馴染んだガムに比べて非常に柔らかく、すぐに甘みも香りも消えてしまう。まるでマッチ売りの少女が見た幻想のごとく、しばしの間、こどもの頃の思い出を蘇らせてくれた。

これらの駄菓子達も、「うまい棒」同様に今後少しずつ価格が上がるかもしれないし、そのうち10円で買える駄菓子はなくなってしまうかもしれない。
おとなになれば2円や5円の値上がりは気にならないかもしれないが、10円という価格設定には、少しでも多くのこどもに喜びを提供したいという企業側の願いが込められているはずだ。
また、こどもたちにとっても10円で買える駄菓子はきっと、最小単位の幸せであり、象徴だろう。おとなになってからもその小さな幸せは、私と同じようにふとした瞬間に思い出として甦るに違いない。だから10円の駄菓子を、忘れないでほしい。

イラスト・撮影/柴山ヒデアキ
撮影協力/「BOWWOW316」東京都足立区千住3-16℡03-6812-0860 営業:14-17時 火・水曜定休
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