異例の措置による活動再開

昨年7月、東京五輪・パラリンピック開会式の音楽制作担当者の一人として小山田圭吾氏が告知されるや、ただちに学校時代のいじめをめぐる1990年代の雑誌での発言がSNSで取り沙汰されることとなった。そしてそれは度重なる報道を通していっそう広く周知されるに及び、ついには辞任を余儀なくされたことは、いまだ多くの人の記憶に新しいことと思う。

五輪だけではない。長らく音楽を担当してきたNHK Eテレの人気番組「デザインあ」は放送休止、音楽を提供したAmazonMusicの短編映画『アメガラス』は配信中止、メンバーを務めるバンドMETAFIVEのニューアルバムは発売中止、ソロプロジェクト「コーネリアス」としてのフジロックフェスティバルへの出演も見合わされるなど、小山田氏はこれを機に、あらゆる仕事を失ってしまった。

そんな小山田氏は、同年9月に『週刊文春』の取材(2021年9月23日号)に応じるとともに「いじめに関するインタビュー記事についてのお詫びと経緯説明」を発表、その概要については後に触れることとしたい。それ以降はしばらく沈黙を続けたものの、今年6月、音楽カルチャー誌『nero』創刊10周年を契機として、静かに活動再開の第一歩を踏み出した(最新号にコメントを寄せる傍ら、同誌特典のレコードのために新曲「Windmills of Your Mind」を提供)。

同誌編集長の音楽ライター井上由紀子氏は、小山田氏と小沢健二氏のデュオとして有名になったバンド、フリッパーズ・ギターの初期メンバーだ。やがて7月22日には、未だお蔵入りのままの映画『アメガラス』の主題歌「変わる消える」の音源がリリース、同時にMVも公開された。

そして何より、昨年降板を余儀なくされたフジロックフェスティバル(7月30日)と、同フェスとともに日本を代表する夏フェス、サマーソニックの前夜祭ソニックマニア(8月19日)への同時出演。2大フェス同時出演という別格の扱いを受けての復活は、音楽ファンにとっては喜ばしいものと言えるだろう。

炎上騒動を超えて――小山田圭吾、活動再開の背景にあったファンの奮闘_1
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この異例の措置は、それぞれのプロモーター、スマッシュとクリエイティブマン両社の社長が「話し合って、2社でコーネリアスを応援したい」という意向を固めたことで実現されたのだという。およそ1年の自粛期間を経ての小山田氏の活動再開が、古くからの友人や音楽業界人の励ましあってのものだったことは明らかだ。