––––阿賀沢先生の初連載『氷の城壁』のコミックスが、7月に発売されます。本日6月4日には、電子書籍ストアの一部で先行配信も始まりました。もともと縦スクロールの形式で掲載されていたものが、紙のコミックスになるにあたってコマを組み替えたそうですね。こうして拝見しても、ほとんど違和感がありません。

【漫画あり】大ヒット縦スク漫画『氷の城壁』が待望の単行本化! ブレイク作家・阿賀沢紅茶が語る「ウェブトゥーンと紙の漫画」の違いと面白さ
人と接するのが苦手な女子高生・氷川小雪を主人公に、もどかしい青春混線ストーリーが繰り広げられる人気漫画『氷の城壁』。同作はもともと縦スクロール形式でウェブ公開されていたが、このたび単行本化することが決定した。作者の阿賀沢紅茶氏に、「ウェブトゥーン」と「紙の漫画」について聞いた。
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初めて自分で物語を創りたいと思って
描き出したのが『氷の城壁』でした

『氷の城壁』より。左が元の縦スクロール形式。右がコミックス用に組み替えられたもの。同作は、4人の高校生小雪、湊、美姫、陽太の友情と恋を繊細に描く物語
きれいですよね。もともと紙に納めることを想定して描いていなかったのでちょっと心配していたのですが、組んでいただいたものを見て、自然に読めるなぁと思いました。
––––『氷の城壁』をスマホで読んでいたとき、ウェブトゥーン(※韓国発の、縦スクロールで読むオールカラーのウェブ漫画のこと)や日本の縦スクロール漫画の中でも特に読みやすいと思っていたのですが、そのあたりは意識していたのでしょうか。
自分が読みやすいように描こうとは思っていました。ウェブトゥーンには「たくさんスクロールしたほうが満足感が得られる」という考え方もあるようで、短い会話でも1つ1つの吹き出しを離して置いていく構成になっていることがあるんです。
私は短い会話なら詰まっていたほうが読みやすいと思っているので…吹き出しを重ねて会話のラリーが続くような、コマ割りのある漫画では普通にやられている描き方をしたりしていました。
––––空の色を徐々に変えることで場面転換したり、竹の背の高さを表現したり、縦スクロールならではの表現もたくさんありましたね。

『氷の城壁』より
縦スクならではの演出は、自分が発明したわけではなくて、ウェブトゥーンを読んでいて「こんなんあるんや!」と思ったものの真似です(笑)。
––––最初から縦スクロールの形式で漫画を描かれていたのでしょうか。
そうですね。初めて自分で物語を創りたいと思って描き出したのが『氷の城壁』でした。
順番に上からコマを整列させればいいというのが、私にはやりやすかったんですよね。なんてことのないシーンは小さめに、ちょっといい顔を見せたい場合は幅いっぱいに描く、というふうに考えればいいので。画面を長くスクロールしてもらうことでテンポを調整できるし、会話のシーンでは物理的にスペースを空ければ、それが黙っている“間”になったりもする。
紙のコマ割りの漫画のようにページ数が限られているものは、セリフ量が多いと1ページの中に文字がぎゅうぎゅうになりますが、縦スクではその制限がないので、間をあけてずっとポエムのようなモノローグを読ませることもできます(笑)。
「ウェブトゥーン」と「漫画」は違うもの
——現在は漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」で『正反対な君と僕』を連載されていますが、こちらは見開き単位でコマを割る、従来の形式で描かれています。縦スクロールとの違いや、難しさを感じることはありますか?

『正反対な君と僕』より。元気な女の子・鈴木さんと、冷静で「『自分が』ブレない」谷くん。正反対な2人の恋を描くほか、様々なタイプの高校生たちが関わり合う姿を描く
縦スクの漫画では、スクロールしない限り“その次”が見えることがないんですよ。でも見開きで読む今の形式だと、びっくりさせたい場面を左ページに大ゴマで置いてしまうと、右を読んでいる時点ですでにそれが見えちゃいますよね。
なので、ネームを切るときに、「どこかを抜いて右ページに入れなきゃ、でもそうするとテンポが崩れるし…」と苦労しています。
——逆に、よかったこと、おもしろいと思ったことはありますか?
私が読み始めた頃の漫画は、もちろん白黒でコマ割りされたものなので、「自分があれを描いている!」という嬉しさがあります(笑)。昔ながらの、あまりタチキリ(断ち切り)を使わずに基準枠の中にコマが納まるような漫画が好きなので、『正反対な君と僕』でも最初はそういうものを真似して描いていたんですよ。
ただ私の漫画はスマホで読んでくださる方が多いので、それだとちょっとぎゅうぎゅうな印象になるみたいで…紙でしか読まれていなかったものを参考にしすぎてはダメなのかもしれない、と思いました。
——なるほど、同じくコマ割りをするマンガでも、それぞれのメディアに合った描き方があるのですね。
そうですね。そもそも私の描くものも含めてウェブトゥーンというのは、「漫画を描く」というより「アプリのコンテンツを作る」感覚で描くもののような気がしていて。吹き出しと絵で構成されているので同じ「漫画」というカテゴリーに入っていると思うのですが、根本的には違うものなのかな、と思います。
——私たち読者からしても、これまでと違う新しいものが出て来た、というイメージがあったのですが、お描きになっていてもそういう感覚なのですね。
両方をやっている身としては、「今後はウェブトゥーンのような縦スクロールの漫画が世界の主流になるかもしれない」という説が出るたびに、「ウェブトゥーンがどれだけ人気になったとしても両方が存在するだけなんじゃないかなあ」と思っていたんです。
私もそうですが、漫画を読む人はやっぱり“本”という存在が好きだと思うんですよね。『氷の城壁』を描いているときも、「紙の本にしてほしい」という声をいただくことがありました。
本にすることを目的として描くのなら、オールカラーではなくて白黒で書いたほうが印刷もしやすいし、もちろんそのままウェブにも載せられるし。一方でウェブトゥーンも、一瞬の盛り上がりだけでは終わらなかったですよね。今、電子書籍を配信しているところがどんどん縦スクに対応し始めていて、ウェブトゥーンも活性化してきているなぁと思います。
もちろん、白黒のコマ割りされた漫画が配信されなくなることも絶対にないので、どれも残っていくのだと思います。
「マーガレット」で「紙の雑誌、初掲載!」を実現?
——『氷の城壁』はもともとLINEマンガで「趣味で」投稿していたものだそうですね。それが集英社の少女漫画編集部とLINEマンガが共同で主催したマンガ賞をとって、「別冊マーガレット」の編集さんが担当についた、と。少女漫画編集者の方が担当になったことで意識されたことはありましたか?
少女漫画を描く、という意識はあまりなかったと思います。これからどうしたいかと聞かれたときに、「まずは『氷の城壁』を描き切りたいです」とお伝えして。それならLINEマンガで公式連載をしましょう、ということになりました。
ただ私の絵がざっくりしすぎていたので、「髪の毛はもうちょっときれいに描いたほうがいい」というアドバイスはいただきました(笑)。
——「別冊マーガレット」と「マーガレット」にはどんなイメージをお持ちですか?
「マーガレット」は、少女漫画の紙の雑誌で隔週というのがすごく珍しいですよね。私は「決められたページ数に収めるってどうやるの?」という状態なのですが、マーガレットの作家さんは、みなさんそれを隔週でやっていらっしゃるんですよね…本当にすごいなと思います。
——「別マ」や「マーガレット」で特にお好きな作家さんはいますか?
山川あいじ先生が好きです。初期の頃の絵柄も好きでしたし、河原和音先生が原作の『友だちの話』も大好きです!

『友だちの話』(漫画:山川あいじ、原作:河原和音)
——もし「別マ」や「マーガレット」本誌で描くとしたら、どんなものを描いてみたいですか?
本当に想像ができないんですよね。内容というよりは、何度も言いますが(笑)、シビアなページ数や締め切りを守るということが想像できない。内容でいうと…「マーガレット」だったら、やっぱり学生ものですかね。
——(『氷の城壁』担当編集 ※現在は「マーガレット」編集部に所属)ぜひ「マーガレット」で読み切りを。読み切りなら、ページ数はそこまでシビアではないので。
そうなんですか!
——(『氷の城壁』担当編集)「紙の雑誌、初掲載!」ということで…それもおかしな言い方ですが(笑)。
作者名の上によくある「期待の俊英!」みたいなキャッチですよね。それが「紙の雑誌、初掲載!」になる(笑)。
——「マーガレット」で阿賀沢先生の短編を読める日を楽しみにしています!
『氷の城壁』第1話を読む
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文・インタビュー/門倉紫麻
『正反対な君と僕』(集英社)
阿賀沢 紅茶

2022年7月4日発売
660円(税込)
B6判/184ページ
978-4-08-883125-1
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単行本版『氷の城壁』(集英社)
阿賀沢 紅茶

2023年7月4日発売(電子版はコミックシーモア、LINEマンガで6月4日先行配信)
990円(税込) ※電子版は792円(税込)
B6版/200ページ
978-4-08-883544-0
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