あの文豪たちもネトラレに萌えていた!?

あなたは、「BSS」をご存じだろうか? 「BSS」とはインターネット1.0時代における掲示板のことではない。主に成人向けマンガで使われる用語。「僕が( Boku ga) 先に(Saki ni) 好きだったのに(Suki Dattanoni)」の略称。いわゆる「ネトラレ」の一分野を表す言葉だ。

「いわゆるネトラレ」とふつうにいわれても、「それってなんだ?」と思われる人も多いだろう。

「ネトラレ」とは「寝取られ」。「NTR」と略されることもある。自分のパートナーが他人の好きにされる状況に、なぜか萌えてしまう性癖を指す。なかなかに"大人な趣味"だが、その歴史は古く、広い。

たとえば谷崎潤一郎の『痴人の愛』の主人公、河合譲治とナオミの関係にはあきらかにその「匂い」が漂うが、谷崎にはそもそも『鍵』という、ネトラレ感覚そのものを主題にした小説がある(大学教授が、妻と後輩の木村さんの関係を想像して興奮してしまいます)。

令和最大のヒット萌え「BSS」を知ってますか?【成人向けマンガ用語の基礎知識】_1
ヒロインの奔放な性癖が描かれ、ネトラレ要素を感じさせる描写も

「谷崎が書くのなら、よほど特殊な性癖でしょう?」と思われるかもしれないが、大正教養主義の巨匠、志賀直哉も『雨蛙』という小説で、妻の不貞疑惑に「不思議な力で肉情を刺戟」されるという男の心を描いている。

余談だが、太宰治はこういうところはわりあいストレートで、実はこの人もネトラレてしまった経験を持つが、しかしそれで興奮するようなことはなかったらしい。素直に「地獄だ」とうめいていた。こうした昭和、大正期だけではなく、さらに歴史をさかのぼっても鎌倉時代に後深草院二条が書いた『とはずがたり』や、もちろん平安時代の『源氏物語』にも「ネトラレ」の要素は見られる。