安倍氏の死去で混とんとする党内力学

参院選挙の応援演説中に、安倍晋三元首相が奈良市で銃撃され、亡くなるというショッキングなニュースが飛び込んできた。いかなる理由があれ、こうした民主主義を破壊する卑劣なテロは決して許されるものではない。

狙撃した41歳の男は元海上自衛官で、捜査関係者によれば「特定の宗教団体に恨みを持っていて安倍元首相がこの団体とつながりあると思い込んで狙撃した」と供述しているという。ただし、この団体がどのような組織なのか具体的なことはまだ不明だ。

この狙撃事件は海外でも民主主義を脅かす政治テロとして速報されており、ジョンソン首相が辞任に追い込まれた英ロンドンなどでも、銃規制の厳しい日本で起きたショッキングな事件として関心の的になっている。

安倍元首相が死去したことで、この事件は今後の自民党政治、わけても党内力学に大きな影響をもたらすことは確実だ。党内力学だけでなく、岸田政権の今後の政権運営にも大きな変化が生まれかねない。

じつは参院選勝利を前提に、今後、自民党内の政治力学がどう変わってゆくのかという原稿を集英社オンライン向けに執筆し終わっていた。安倍元首相狙撃のニュースはその記事の配信直前に飛び込んできたものだった。

そこで急遽、稿を改め、今後どのような動きが自民党内で予測されるのか、書いてみたい。

ただ、まずは配信予定だった原稿の一部を読んでほしい。安倍元首相狙撃以前に予測された参院選後の自民党内の動きについて、最初に説明しておきたいからだ。以下、狙撃事件直前に配信予定だった記事をお届けする。

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岸田首相は大きな波乱がないかぎり参院選に勝利し、その後の3年間は国政選挙のない安定した状況=「黄金の3年間」を手中にするというのが、永田町筋の見立てだ。

そうなると、参院選後の焦点は各党の新勢力よりも、自民党内への派閥勢力図へと移る。元気のない野党の動向よりも自民党内の派閥間抗争の方が政局を左右しかねないからだ。

自民の主要な派閥勢力は現在、安倍派が94人、以下、茂木派54人、麻生派49人、岸田派44人、二階派42人となっている。参院選で多少の増減はあったとしても安倍派が突出して多く、最大派閥として岸田政権に影響力を行使する構図は変わらない。

ただし、旧宏池会の流れをくむ岸田派44人と麻生派49人が組めば、話は別だ。両派を合わせれば、93人となり安倍派と拮抗する。

そこにやはり旧宏池会系の谷垣グループ24人、さらには岸田派と関係良好な茂木派54人が連携すれば、「大宏池会プラス茂木派」で安倍派を圧倒する数になる。

こうした状況を見据え、自民党内ではすでに参院選後の主導権争いのような駆け引きが水面下で続いている。