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有頂天のライブで感じたKERAの“現在進行形”な姿勢

2023年4月23日(日)、有頂天のライブを渋谷La.mamaで観た。
3月に恵比寿ザ・ガーデンホールでおこなわれた還暦ライブに続く、KERA還暦イヤー企画の第二弾だ。キャパ250人のLa.mamaは、ぎゅうぎゅうづめの超満員だった。
2回のアンコールを含む全24曲のステージ。古くからの有頂天ファンとしては、オープニングの『ころころ虫』(アルバム「ピース」収録)をはじめ、『ミシシッピ』(シングル「心の旅」B面)、『MEANING OF LOVE』、『FINE』(ともにアルバム「AISSLE」収録)、『WHY』(カセットブック「BECAUSE」収録)、『みつけ鳥』(アルバム「AISSLE」収録)などのインディーズ〜メジャー展開初期の時代の曲をがっつりやってくれたことが嬉しかった。

本編後半に演奏した『フューチュラ』(アルバム「ピース」収録)では、本来の「あんたらヘンだ ドーモアリガト やたらヘンだ ドーモアリガト あんたらダマメだ ドーモアリガト みんなダマメだ ドーモアリガト」というサビの歌詞を、KERAが「高橋幸弘 ドーモアリガト 坂本龍一 ドーモアリガト 宮沢章夫 ドーモアリガト マーク・スチュワート ドーモアリガト」と変えて歌った。この部分は掛け合いになっていて、「ドーモアリガト」は客もシンガロングする。
憧れのポップ&ロックスターの訃報が相次ぎ、ここのところ少しずつ心に穴が穿たれていた僕だったが、なんだかKERAのおかげで少し気分がスッキリした。きっと同じように感じた同世代の客も多かったのではないだろうか。

そしてこの日の有頂天ライブで特筆すべきは、のちに公開されたセットリストを見てもただ「新曲」とされている、タイトル未定の未発表曲を5曲もやったことだ。
インディーズブームだった1980年代半ば〜1990年代前半にかけて人気を博し、一旦解散したものの、2014年に再結成した有頂天。
普通ならこうした“再結成バンド”は同窓会的ムードが色濃く、昔なじみの曲ばかりをやるものだ。ところが有頂天は新曲を5曲、それに再結成後の2015年に発表したミニアルバム「lost and found」と、2016年発表のフルアルバム「カフカズ・ロック/ニーチェズ・ポップ」からの楽曲も5曲披露した。つまり、再結成後の曲が全24曲中10曲を占めていたのである。
KERAが有頂天を過去のバンドではなく、バリバリ現在進行形のバンドと考えている証だろう。

KERAは1990年代の後半から2010年代前半まで、音楽活動をあまり積極的にはおこなわなかった。それはちょうど、劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチとしての名声が高まっていった時期と重なっていることに、関連がないわけではないだろう。
2005年からは、ケラ&ザ・シンセサイザーズで毎年ニューアルバムをリリースし、音楽シーンへの復帰の兆しも見えたが、そのバンド活動も2007年7月のライブを最後に休止宣言。その後も散発的なライブやアルバムのリリースはあったものの、もはやKERAは音楽を趣味程度に考え、完全に演劇人として生きていくことを決めたかのように見えた。

などと知ったようなことを書いているが、正直なところ僕自身もその頃は、KERAの音楽活動をほとんど追いかけてはいなかった。劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチの存在がどんどん大きくなっていくのに反比例し、ミュージシャンとしてのKERAの影は、限りなく薄くなっていたと言っても差し支えはないだろう。