
このまま団塊の世代が「2025年問題」を起こし、現役世代は押し潰されるのか? 課題解決のカギは「クロスジェネレーション」にあり
団塊世代の「2025年問題」による社会保障の増大が起これば、その負担が現役世代にのしかかるおそれがある。これを乗り越える手段はあるのか。
団塊の世代#2
「2025年問題」を巡る社会保障費の増大が、団塊の世代と現役世代に深刻な対立を引き起こしかねない。これを乗り越える手段はあるのか。大人マーケティングの専門家である「人生100年時代 未来ビジョン研究所」の代表・阪本節郎氏は、団塊の世代を「社会保障費の受益者」ではなく「消費者」と捉える視点が、「2025年問題」を乗り越えるカギになると主張する。
世代間対立の引き金を引くかもしれない「2025年問題」
太平洋戦争の敗戦から数年後に生まれ、戦後社会の復興、成長、隆盛とともに年を重ねてきた団塊の世代。
同世代の人口が多く、数の力で社会や文化を塗り替えてきた彼らは、70代を迎えた今もなお「俺たちが社会の主役」という自意識が強い。そうした独特のメンタリティと彼らの持つ「封建性」(後述)が現役時に下の世代から疎まれた要因だと、大人マーケティングの専門家・阪本節郎氏は分析する。
高度経済成長期に日本を若者社会に変えたのだから「俺たちが社会を動かしている」という感覚を持つのは自然なことかもしれない。その意味では、一見、自己中心的にも思える団塊の世代のメンタリティにも、一定の理解を示す必要があるのだろう。
しかし現在、社会の中核を占める人々は、バブル崩壊以降に少年期や青年期を送ってきた世代だ。とりわけ50代に差し掛かった就職氷河期世代以降は、長期不況が日常の風景であり、社会や経済が右肩上がりに成長する姿をイメージすることすら難しい。

数々の将来不安に晒される現役世代には、団塊の世代とは戦後の平和な時代に生まれ、高度成長期には学生運動やヒッピーで自由を謳歌し、40歳前後でバブルの甘い汁を吸い尽くし、リタイア後には莫大な社会保障負担を押し付けてくる、極めて傲慢な「逃げ切り世代」と映りがちだ。
「団塊の世代は、戦後の端境期に生まれたこともあって『革新性』と『封建性』という相容れない性質を同居させていることが多いんです。この『革新性』は彼らが若者のときに発揮され、『封建性』はその後企業社会に入ってからあらわになりました。
例えば、上の世代に対しては革新的にどんどん反抗しましたが、下の世代に対しては、企業というピラミッド組織のなかで封建的に強圧的な態度で臨む。また、若い頃には理想を掲げるヒッピーにも共感した一方で、中年になってからはサラリーマンとしてバブルの渦に飲み込まれてしまった。
こうした二重性は時代の変わり目に生まれた宿命ともいえますが、下の世代からは『変わり身が早い』『節操がない』といった批判の的にもなってしまいます」
こうした世代間対立の引き金を引くかもしれないのが「2025年問題」だ。団塊の世代の全員が後期高齢者の75歳以上となることで、現役世代への社会保障負担が増大するおそれがある。すでに多額の年金や社会保険料に苦しんでいる現役世代に、これ以上の負担を強いれば不満が爆発することもあり得るだろう。
そもそも「2025年問題」は本当に起こるのか
こうした世代間の対立は避けられないのだろうか。このまま「2025年問題」が起こり、現役世代は押し潰されるのだろうか。
代表を務める「人生100年時代 未来ビジョン研究所」で大人向けマーケティングの研究開発を続けてきた阪本氏は、別のシナリオがあり得ると提言する。そのカギは、独自の調査を重ねるなかで見えてきた「新しい大人」の存在にある。
「例えば、私たちが独自で実施した『理想の大人像』に関する調査では、『既成概念に捉われない柔軟な考えを持った大人でありたい』89.7%、『いつまでも若々しい大人でありたい』85.6%など、70代が全年代中で最も高い割合を示しています。こうした項目でここまでの高い割合を示すという傾向は、従来の高齢者には全くあり得なかった結果です。かつて『新しい若者』を作り上げた団塊の世代が『新しい大人』を作り上げようとしているわけです」
少年期、青年期、壮年期と新たな文化やライフスタイルを開拓し、根付かせてきた団塊の世代。高齢期においても、先行世代と異なる存在であっても不思議ではない。
では、こうした団塊世代によって「2025年問題」が実際に起こるのか。これに関しても未来ビジョン研究所では興味深い調査結果が出ている。

出典:人生100年時代 未来ビジョン研究所調査(2022年3月)
「団塊の世代が『介護予防行動』をしているのです。介護予防は一般の生活者にとっては比較的新しい考え方です。現在の75歳以上、とりわけ80歳以上では、そういう考え方はなく、漠然とした健康不安のなかで75歳以上となり、転倒などの要因によって要介護になりました。
しかしながら団塊の世代に介護予防行動について聞いたところ、『新聞や本をよく読む』などの認知症予防や、『適度な運動』『散歩』などの身体介護予防など、何らかの予防行動を実際に行っているという割合が、団塊世代の70代で91%にも上りました。
そもそも『2025年問題』は、“団塊の世代が上の世代と同じ割合で要介護になる”という前提で計算すると、社会保障費が膨大になって財政が破綻しかねないと、行政やメディアによって力説されたものです。
しかしながら当の団塊世代はすでに介護予防行動を起こしています。9割が具体的にアクションしているということは、行政やメディアがいう『2025年問題』のようにはならない可能性もあるということです。
そして介護予防行動は、ジム、ヨガ、ウォーキング、ランニングに関する商品・サービスや、サプリメント、医薬品などの『消費』になります。つまり、ここで、『社会保障費の受益者』から『消費者』への転換が起こるわけです。コロナの第8派もピークアウトし、5類になったこれからが、消費者としての活躍が期待されるところといえます。」
実際、団塊の世代は健康以外の消費意欲も旺盛であり、「ポストコロナには旅行に出かけるなどの消費をしようと思うか」という調査では、全世代中で最も多く84.7%が「消費をしたい」と回答している。
こうした、いつまでも若々しく輝いていたい「新しい大人」は、社会保障の恩恵に預かる「受益者」ではなく、経済の活性化を促す「消費者」としてのポテンシャルを秘めていると阪本氏は話す。
「消費意欲の旺盛な『新しい大人』は経済の活力源にもなり得ます。現在、日本の金融資産は2000兆円を超えるといわれますが、その8割以上は50代以上が保有しています。その人たちが健康を保ちながら消費に前向きになれば、現役世代の“雇用”やいま話題の“給与増”を生み出すことに繋がるでしょう。
もちろん要介護者をゼロにすることはできませんが、『2025年問題』が想定する最悪のシナリオを避けることは可能なはずです」
クロスジェネレーションで次の未来へ
阪本氏は、団塊の世代が健康維持に励み、消費者として経済を牽引するとともに、介護や福祉などの労働力を自分たち自身も一部担うことで、世代間の対立や格差を緩和できるのではないかと説く。さらにその際に重要になるのが、年齢を問わず交流して相互理解を深める「クロスジェネレーション」だという。
「未来ビジョン研の調査で『大人世代が応援することで、自分たちではなく、若者世代から新しい文化が生まれることは望ましい』と答えた団塊世代の70代は、全年代のなかで最も高い88.7%という結果でした。実は『団塊世代は若者世代を応援したい』と思っているのです。
コロナ後の旅行観光でも『そこで働く若者や女性にプラスなるのであれば旅行観光や飲食をしようと思う』団塊の70代は、全年代のなかで最も高い79.1%で、割引だけでなく『若者支援』になるのなら旅行観光をしたいと思っています」
「団塊の世代は若者文化を創設した世代ですから、若者と共通した感覚を有していますし、分かり合える余地は十分にあるでしょう。例えば、昨年、お亡くなりになったアニソン歌手の水木一郎さんも団塊の世代ですが、アイドルのももいろクローバーZと親交が深く、たびたびコラボレーションしていました。
こうしたクロスジェネレーションの機運を、マスメディアなどを通じて広く普及していくのが、『2025年問題』を前にした日本に求められていることだと思います」
もちろん、「2025年問題」を回避するためには、当事者である団塊の世代自身にも大いに奮起してほしいところだ。
「現在の日本の最大の社会課題『社会保障費』を解決できるのは、まさに、すでに行動を起こしている団塊の世代なのです。団塊の世代は“自分たちの健康づくりはより若い世代を助けることだ”という気持ちを持ち、彼ら自身の手によって解決できることが望ましいといえます。そうすれば、団塊の世代は人生のファイナルステージで、もう一度『社会の主役』になることができるはずです。
もしそうなれば、世代間でリスペクトし合いながら社会を支えていく希望の道が、開けるのではないでしょうか」
2025年まで2年足らず。団塊の世代と現役世代はこのまま衝突への道に進むのか。
それとも、ともに支え合い、苦境を乗り越える道を選ぶのか。
日本社会が岐路に立たされている。
取材・文/島袋龍太
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