ずっとラブシーンを見せられても面白くない

性的描写は10分に1回。松居大悟監督が“ロマンポルノ”の制約の中で描いた普遍的な愛_5
©2022日活

――ロマンポルノは「10分に1回性的描写を作る」「上映時間は70分程度」など、独自のルールがあります。

松居 この映画もそうです。10分に1回、必ず性的描写を入れています。

金子 そうなんですね!

松居 ちゃんと意識しながら作ってたし、確認しつつ編集してました。

福永 その制約、全く感じなかったです。

松居 “性的描写”なので、絡みじゃなくてもいいんです。例えば1人でするのも性的描写にあたるので。個人的にはラブシーンだけを見せられても割と面白くないと思っていて。むしろドラマティックな物語が描かれる中にラブシーンがあることで、切ないものになったり、なんなら普通の会話のシーンが官能的に見えたりする。そういう逆転する瞬間があるのが面白いと思っていて。
だからラブシーン自体は焦らしつつ、心の揺らぎを丁寧に描きました。単純に手をなでるシーンや、別れ際に不意にキスをしたりするシーンを、どきっとするほど色っぽく撮ったり。
「ラブシーンだ!」という感じで撮らなかったので、そこが今までにない新しいロマンポルノになったと思います。

性的描写は10分に1回。松居大悟監督が“ロマンポルノ”の制約の中で描いた普遍的な愛_6
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――演じられたおふたりは、ラブシーンを演じる上で意識した点などはありましたか?

福永 気負いとかはなかったですね。

金子 さっぱりしてましたね(笑)。ただ、意識したのは感情よりもどう見えるかということ。カメラにちゃんとおさめないといけないので、表情が見えるように髪の触り方を意識したり、そこは何度もリハーサルして確認しました。

福永 手の置き方とかをリハーサルで何度も確認したからこそ、私は感情に任せて演じられるシーンもありました。冷静な視点と感情的な芝居、半々くらいだった気がします。

――ロマンポルノと言われなければ、純粋に20代の男女の繊細な心の動きをとらえた上質なラブストーリーとしても楽しめます。どんな人に届いてほしいと思いますか?

松居
 今この時代に、この世界に生きている人に見てもらいたいです。男とか女とか、性別で対象をくくりたくなかったし、全性別に向けた映画だと思っています。それがすなわち、愛についての映画だと思いますから。

性的描写は10分に1回。松居大悟監督が“ロマンポルノ”の制約の中で描いた普遍的な愛_7
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――ロマンポルノが作られていた70〜80年代と今とでは、性に対する意識にも違いがあると思います。

松居 実はロケで使わせてもらう物件を探すのにめちゃくちゃ苦戦したんです。50〜60代の方に「ロマンポルノの撮影で使いたいんです」というと、「そんな撮影には貸さないよ!」みたいに言われてしまって。逆に20〜30代の方だと「あ、面白いっすね、どうぞ」となる。ロマンポルノに対する価値観が全然違うんだなと思いました。それはもちろん世代の違いだと思いますし、性別や環境によっても受け取られ方は違うなと思いましたね。

福永 私自身は、この作品がロマンポルノであるということはそれほど意識しなかったんです。純粋に、この物語の中で生きるということだけ考えて撮影しました。ただ、ロマンポルノに触れてくれる人が増えて欲しいという思いはもちろんあります。きっと先入観で避けてしまう人もいると思うのですが、見てから判断するのと、見ずに避けるのとは違う。認めるとか気に入るというところまでいかなくても、「こういうジャンルがあるんだな」と、知っておくだけで世界は広がると思うんです。この作品が、世界を広げる間口になればいいなと思います。