すべての条件がそろっていた「辛とん」
「越後つけ麺維新」はコシの強さとツルツルののどごしを両立した麺に、クリーミーな豚骨スープが特徴の人気店。湯沢本店などの系列店を含めて新潟や首都圏等に6店舗ほど展開している。ワッキーさんは10数年前、この付近を通りかかった際に何気なく入店して以来、常連となっていた。
「たまたまいろんな条件がそろってたんでしょうね。味覚障害でも感じられる『濃厚なスープ』に『つるつる麺ののどごし』、もともと好きだった『辛い系』、何より味覚が正常だった時から通ってたから“味の記憶をたどれる”のが大きかったかもしれません。
味覚障害がひどかった時期に一番行ったお店は間違いなく維新さん。味が濃くて辛いもののほうが味わいやすいんで、一瞬、すき家のねぎ玉牛丼に浮気しちゃったんですけどね。やっぱりここの『辛とん』に戻ってきました。あの頃は本当にお世話になりました」
治療後2年の“味覚2割時代”を維新の「辛とん」で乗り切ったワッキーさん。その後は少しずつ味覚は戻ってきており、正常時の7割くらいまで回復したそうだ。しかし、ここからさらに良くなるのか、一生このままかは相変わらずわからない。
「もう味覚に関してはそういうものだと割り切ってます」
とは言いつつも、味変のために「島とうがらしパウダー」を常に持ち歩くなど、食事をよりおいしく食べるための工夫は欠かさない。やはり食は人間の力の源なのだ。味覚障害を経験したワッキーさんは食の大事さについてこう話す。
「僕みたいなおじさんになってくると新たな刺激も少ないですし、食しか楽しみがなくなってくる。なのに、その食の楽しみすら奪われるってめちゃくちゃしんどい。
みなさんの中には悩みを抱えてる人もいるかと思うけど、おいしいご飯を10割の味で食べられる……それだけで本当に幸せなんですよ。味と自分の健康を噛みしめるだけで、悩みなんて吹っ飛びます。そのことを覚えておいてほしいですね」
後編では入院中の感動エピソードと、治療後に起こった死生観の変化についてワッキーさんが語る。
取材・文/武松佑季
撮影/下城英悟













